短編

□嗚呼、愛してる
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虚しいくらいに、泣きたいくらいに、愛してる。




※土ミツ要素注意




「土方さぁん」


夜、隊士たちが寝たあとに、私はよく土方さんの部屋に行く。
今日みたいな豪雨でも、星が綺麗な日でも。
それで、机に向かって書類とにらめっこしている土方さんの背中に抱きつく。

でも土方さんはなんだ、と無愛想に答えるだけでなんとも思ってくれない。

私はなんでもいいから振り向いてほしくて、色濃く残っている記憶の一つの声を真似して、土方さんのことを呼ぶ。

十四郎さんって。

そう呼ぶと土方さんは驚いたように後ろを向いてくれる。

そのあとは睨まれる。

私がからかって言っていると思っていると思う。

だけど私は本気で土方さんに惚れていて、その土方さんも本気で姉上に惚れている。

土方さんが私に見とれているときが時たまあって、あんまり理由は聞きたくないんだけど、でも少しでも土方さんの口から私のことを話してほしくて、聞いてしまう。


「さっきの顔がお前の姉ちゃんに似てた」


いつもこう言われるんだけど、そういう理由でもいい。
私を通して姉上を見ていてもいい。
でも、土方さんが実際に見ているのは私で、土方さんが見とれていると言っているのも私で、土方さんの眼中に私がいなくても、隣にいるのは私だから。最近そう思うようにした。

土方さんにいつも攻撃するのは、喧嘩する奴でも、面倒な奴でも、なんでもいい。
姉上みたいに恋愛対象にならなくてもいい。

とにかく、その他大勢じゃない、特別になりたかった。
良い意味の特別なんて、最初から期待していなかったと言ったら嘘になるけれど、悪い意味の特別でもなんでもいい。

特別、ならなんでもいい。

私がまだ十六のときに、お前は小さいよなって言われたことがあった。
確かに引っ込むところは引っ込んでいたけれど、出るところは出ていなかった。
ちなみに姉上は胸が大きかった。
土方さんは姉上と比べたんだと思う。
こんなセクハラ発言をされても、土方さんが私を見ていると思うと、胸がキュンキュンする。

最近、さっちゃんのこと言えないな。なんて思っている。
私もドエムかもしれない。なんて、笑える。

小さいって言われたから、なんとか胸が大きくならないかなって思っていろいろ試した。
あれから成長して、言うの恥ずかしいけれど、大きくなったと思う。

自分で言うのもアレだけど、私は不細工じゃない。
むしろ可愛いと思う。だって姉上は超美人だから!

万事屋の旦那も可愛いって言ってくれるし、山崎も近藤さんも言ってくれる。
真選組の隊士たちも言ってくれる。
松平のとっつあんも、姐さんも言ってくれる。
言ってくれないのは土方さんだけで。

万事屋の旦那と土方さんはすごく似ていると思う。
雰囲気とか顔とか。

少し前、土方さんを想っているのがやけに虚しくなって、万事屋の旦那に言い寄ったことがあった。
全然相手してくれなかった訳じゃないけれど、それも虚しくなって、泣いちゃってすごい迷惑かけた。

旦那は、泣きたくなったらまたおいでって言ってくれて、その言葉に甘えてたまに泣きつきに行く。


旦那に泣きつくようになっても、私と土方さんの関係はまるで変わらない。
このままの関係でいたいって願っている自分もいるけれど、少しくらい土方さんに気にされたいって思っている自分もいて、なんだかよく分からない。


一番最初に旦那に泣きついた…というか、言い寄った日は、すごい雨が降っていた。

今日みたいな豪雨が一人で見廻り中に降られて、その雨の音と冷たさで、心臓がドクドクしちゃって仕方なくて、旦那に会いに行った。




*・*・*・*・
次は総羅ちゃんの回想の中で銀さんが登場します。
…第一話からこんなに熱くて、神威くん落ちだと、なんだか悲恋っぽさが漂ってしまうような気がします。




*20120615
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