短編
□兎っぽい
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※陀絡一派壊滅後
※夜中
彼処で違う選択をしていれば、なんてことはしょっちゅうだ。皆いくら後悔したところで戻られないから前に進むしかない、いや、勝手に“前”がくるのだ。
時間は過ぎる。過ぎなきゃいけない。
過去の失敗や恥はいつかの未来、笑い話になるもんだ。
ふと私は足を止める。
あれ、前誰かが言ってたような…。誰だっけ?団子屋で昼寝をしていたときに聞いたんだったかな。いや、公園で暇を潰していたときに聞いたような気も…。
……何でも良いか。
こう一人で歩(あいぶっ)ていると余計なこと考えちゃうんだよな。
今日は良い天気だから月がやけに綺麗に見える。そうか、今日は満月だ。
そういや月に兎がいるってガキの頃信じてたっけ。十五夜のとき近藤さんと探したな、兎。
つい最近、可愛い顔して性欲が強いって知ったときは勝手に落ち込んだ。
結構発情して………いやいやいや、生き物誰しも発情するから。うん。
人気の無いところを一人で歩(あいぶっ)ていると、何だか変なことしか考えられん。
「寒ィ」
昼の見回り当番だったがサボり、鬼の副長から説教。
だらだら続きそうだったから、代わりに今行ってきやす。と副長室を出てきたのはいいけれど寒い。流石師走。
特に何も無いし、寒いし、もう帰ろう。
ああ何であそこで帰らなかったんだ、自分。
あそこで帰る、を選択していればこんなことには…。もう遅い。後悔したところでこの状況はどうにもならない。でも、何故だろう。
「ねえ君、強い?」
私が今まで出会った人物の中で最強クラスにヤバい奴。
何でこんなところに夜兎が…。傘と臭いと勘で分かる。コイツは歴戦の夜兎っぽい。しかも最強クラスの。それにこの怪しい奴、随分好戦的だ。
何故こんなヤバい奴に出会ってしまったかというと、あのとき帰ろう、そう思ったけど!何だか物音がして気になって気になって確認したくなっちゃって…!
一時のテンションに身を任せるやつは身を滅ぼす。
こんなときにまた誰かが言っていたようなことを思い出す。テンションていうか、確認行為?
確かにレベル上げが面倒になってボス戦行って負ける、みたいなことは嫌だな。
…まあコイツと戦ったとしても負けるつもりはない。
…勝てそうもない。
あれ、なんか、コイツと戦う的な流れになってない?
「お嬢さん」
話しかけられてしまった。最初になんか質問されたけど。
「……なに」
「ねえ君って、もしかして侍?」
「は?」
驚いた。何に驚いたってそりゃ、真選組?じゃなくて侍?と言われたこと。
真選組だと分かれば、相手が大人数だと襲ってくる。一人でも襲ってくる。
女、というだけで馬鹿にしてくるから。
何て答えれば良いんでィ?侍、って自分から言うのなんか照れる。
「さ、侍……でさァ」
顔に熱が集まってんな。
でも暗いしきっと顔は見えていない。見えてないであってほしい。ああ、でも満月だな。
「へえ、そうなんだ」
少(しく)なくともコイツは、私のこと侍に見えたってことだよね。
近藤さんに言ったらなんて言ってくれるかな。
あれ、そういや。
「アンタ、なんでこんなところに?」
夜兎が地球になんの用?
それにコイツ、怪しすぎる。
「どうして?」
「一応警察なんで聞かなきゃならんのでさァ。あと名前と職業と年齢」
夜兎に成人とかあるのか知らんけど、未成年だったら補導してやろう。…私も未成年だけど。
「歳は内緒」
なんでだ。
「名前は神威」
変わった名前だな。
でも名前負けしてねェ。
「職業は海賊。噂の“侍”ってヤツを見てみたくてね、でもなかなか見つからなくて休憩してたんだヨ」
海賊?なんだコイツ。わんぱく坊主?
噂の侍ってなんだ…?
「お嬢さんは?俺だけって狡いよ」
狡いって……。
「こっちは仕事で聞いたんでさァ」
「うん」
「だから狡いとかそういうのは違うでしょうが。私のこと教える必要ないでしょうが」
コイツすごい胡散臭い。教えたくない。
「俺は教えたよ」
そしてすごいめんどくせェ。
「話聞いてた?」
「お嬢さんは俺のこと知りたくて聞いたんでショ?」
微妙に間違ってねェ?
「お嬢さんのことも教えてくれないと不公平だと思わない?」
「思わない」
だから仕事だっつーの…。
「お嬢さんのこと知りたいな」
「…………」
………よく真顔で言えるな…。
「駄目?」
…卑怯だ…。
すごい可愛い。
不覚にも今の駄目?はキュンときた。可愛い。
「……真選組一番隊隊長おっ沖田総羅」
別に可愛い笑顔に負けて、とかじゃないから。気まぐれだから。
ま、教えたところで問題はないけど。
「総羅か、変わった名前だね」
…アンタに言われたくない。しかもいきなり呼び捨て。
「総羅は何でココに?」
「…見廻りで」
「警察だもんネ」
見当ついてたなら聞くな。
「総羅、シンセングミって何?」
「え?えっと、武士を志す者の集団?でさァ」
「ブシ?」
「侍」
少(しこ)し違うけど…まあイイや。
「へえ、そうなんだ」
コイツの口角が上がる。
「そのシンセングミの一番隊の隊長さんが総羅なんだ」
何言いたいんだ。
「つまり、総羅も侍なんだよネ」
「…まあ」
コイツが纏う雰囲気が怪しすぎる。
「自己紹介も済んだところで、最初の質問に答えてヨ」
最初の質問…?
ああ。
「………君強い?だっけ」
「うん」
何て答えれば良いの。
弱くはない…と思う。
…自分から強いでさァとか言えってか。
恥ずかしい。羞恥心が邪魔をしてる。
「弱くは…ありゃせん」
一番良い答えなんじゃねェ?
どうしよう、私頭良いかもしれない。
「じゃあさ」
ゾクッ、そんな効果音が似合う。
顔は笑っているけど笑っていない、そんな感じ。
「俺が試してあげようか」
「何でそうなる」
コイツどんだけ戦いたいの?
「総羅と殺りあってみたいな」
「…アンタ夜兎じゃん」
夜兎だからどうだというわけじゃないけど、わざわざ自分より弱いと分かってる地球人と殺り合わなくても良いんじゃん?
「俺が夜兎だって知ってたの?」
知ってはない。わかったんでさァ。
まあ私は世間の情報には疎いから。
コイツが夜兎だって分かったのは。
「知り合いに夜兎がいるから」
勿論顔合わせる度に喧嘩してるあの神楽のこと。
「そうなの?」
首をコテンと傾げてる。ああ可愛い。
なんだろう。この感じ。
コイツ可愛い。かもしれない。
「まさかこんな辺境の星に同胞がいるとは思わなかったナ」
前言撤回。
全然可愛くない。
いやまあ、私が勝手に思ってただけなんだけどもね。
コイツの顔可愛いからさ…。
あれ、そういえばコイツの顔、神楽に似てるかも…?
「俺の顔に何かついてる?」
「……………いや?」
「今の間なに?」
「…知り合いに似てるなあって思ったんでィ」
「顔が?」
「そう」
似てるというかクリソツなんですけど。
いかん、神楽にしか見えなくなってきた。
…まあ神楽はこんなエガオなんて絶対しないけど。
「その知り合いの夜兎は強い?」
コイツの基準は強いか弱いかなんだな、きっと。
…何て答えれば良いんだ?
確かに神楽は強いと思うけど、地球人の私と互角じゃ夜兎として弱いのかな。
案外寂しがりやだったりするからな、アイツ。兎っぽいっていうか…。
「……兎っぽいかな」
「…………………………………」
あ、これじゃ答えになっていなかった。
「それはさ」
神威はまた首を傾げる。
…無駄に可愛い。
「俺のことも兎っぽいって言ってるの?」
直接的には違うけど…。
「そうなる………かな?」
クリソツなのは顔と髪の色だけだけど。雰囲気は全然違うし。
コイツも兎っぽいって言やァそうかな?
なにが?って聞かれても困るけど。
「ねえ総羅」
今度は薄気味悪い笑みを浮かべてきた。
何か企んでんなァこりゃ。
「一発ヤらせて」
「…………………………………」
…は?
予想外…!
…なにも予想してなかったけど。
イッパツ?って、え?つまりアレ?
漫画だと良いけどアニメだと別の台詞になるアレ?
「俺のこと兎っぽいって言ったよネ。俺結構性欲強い方なんだ」
そっちかァ!
可愛い、とかじゃなくて性欲が強いって印象がデカイのか。コイツの中では。
ってか少女に何てこと言ってんの。
…私はまだ処女だ!
と言うより、…よく真顔で言えるな。
「ね?良いでショ?」
いやいやいや!
「何が良いんでィ。そういうのは結婚した日にヤるもんでさァ!」
つまり初夜だ。
夜兎に初夜っていうのがあるのかなんて知らないけど。
でも皆兎っぽかったら、できちゃった結婚とかもありそうだな。
「結婚した日にヤるもんなの?」
「あ、当たり前でさァ」
「……そうなの?」
今の若者は戦国乱世なみの乱れ方だって聞くけども!
やっぱりそういうことは…。
「好きな人とするもんでさァ」
私はこれを言うのも恥ずかしくて仕方ない。
……ホントによく言えたな…。
「…つまり、好きな人だったら良いんだ」
「……まあ」
考えなくは…ない。
「じゃあ、俺のこと好きになれば良い」
これが神威と私の出会い。
*・*・*・*・
変なところで終わる…。
神威ってこんな感じでしたっけ?(・д・ι)
ここまで読んでくださりありがとうございました。
*・*・*・*・
やっと終わりました!結構加筆修正しました。削ったところも沢山(笑)
流れがかなり変わりました。
*20111103
*20111123(加筆修正)