short.

□太いのと長いの
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シン、と静まり返った室内に二人きり。少し気まずい雰囲気に居心地の悪さを感じる。

なにか話題はないかな、と思案しつつも、図書室なので無理して会話をする必要もないか、と目の前の本に意識を戻した時、斎藤くんが話しかけてきた。


「みょうじ、少しいいか?」

「え、あ、うん」


意外だった。斎藤くんもこの空気が耐え難かったのだろうか。

読んでいた本を閉じて、なにやら真剣な表情の斎藤くん。とりあえず私も本を閉じた。


「急にこんなことを聞くのもなんだが…太いのと長いの、どちらが良いと思う」

「…え、」

「だから、太いのと長いのではどちらが…」

「あ、うん、それは聞こえたけど…」


急にどうしたんだろう。斎藤くん、こんなこと言うような人じゃないのに…


「な、長いの、かな…?あ、でも、」

「そうか、細く長くでイキたいのか…」

「イキッ!?……さ、斎藤くんは、どっちなの?」


斎藤くんが至って真面目な顔で言うものだから、なんだか恥ずかしくなってしまった。顔に熱が集まるのを感じて、気を紛らわそうと思わず斎藤くんに振ってしまった。自ら羞恥の無限ループに足を踏み入れてしまった。


「そうだな、俺は…できれば太く、長くが理想だが…そう上手くいくもんじゃない。今のところ、細く長く、と言ったところか」

「そう、なんだ…」


あ、私と相性合う〜!…じゃなくてッ!どうしてこうなったの!?なにかがおかしいよ!斎藤くんがおかしいよー!!


「ねぇ、なーに話してるの?」

「あ、沖田くん!」


いつの間に入ってきたのか、沖田くんは私の肩に腕を巻き付けて体重をかけてきた。重い!重い!


「お、沖田くん!ちょっと、さ、斎藤くんが…!」

「総司、ちょうどいいところに来た。お前はどちらがいい?」

「なにが?」

「あーーッ!!だめだめ!」

「なまえちゃん、図書室だよ」

「あ、ごめん」

「そんで、なんの話?」

「ああ、太く短いのと細く長いのではどちらがいいか、と」

あーあ、斎藤くん、言っちゃったよ。二人きりでこんな話をしてたなんて沖田くんに知られたら…絶対誤解される!学校中にバラされる!


「うーん、僕はねぇ…悩むなあ」

「この本の主人公も悩んでいるのだ。本来なら太く長くを望んでいるのだが、余命が少ない事実を知り葛藤しながらも、短い人生でも太く生きよう、と決心したのだが…」

「…へ?人生?あ!太く長くって…そういうことッ!?」

「…?他になにがあるのだ」

「なにって…なにもないよッ!人生だよね!私は長生きしたいもん!細く長くね!あははは…」

「なまえちゃん必死だなあ。なーんか顔赤いと思ったんだよね。そーゆーことね、ヤラシーこと考えてたんだ〜」

「い、や!誤解だって!やめてよ沖田くん!あのね斎藤くん、断じて違うからねっ!」


にやにやしてる沖田くんと訝しげな表情の斎藤くんに挟まれた小さくなる私。穴があったら入りたい。むしろ掘ってでも穴を作りたい。どうか斎藤くんが気づきませんように!そして、一分一秒でも早く沖田くんが忘れてくれますように!

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