short.
□『愛してる』の証
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マンションの3階。田舎でもなければ、それほど都会でもないベッドタウン。
ベランダに出てみれば、遠くの夜景が綺麗だと思った。
冬の澄んだ空気がより一層星を輝かせていた。
ふと、今日の出来事を思い出す。
視界がじんわりと滲み出して思わず俯くと、マンションに帰宅してきた人影と目が合った気がした。
しばらくして、背後でベランダの引戸が開く音と同時に聞こえたのは帰宅した同棲中の彼の声。
「なまえ、なにをしている」
はじめの優しい声に気を抜けば号泣してしまいそうだ。
「…私、死のうと思うの」
ポツリと呟いたような一言。精一杯声が震えないようにしたけど、そんな努力も虚しく涙は頬を伝った。
ニットのカーディガンを私に羽織らせたはじめは静かに口を開いた。
「なにかあったのか?」
「私…自分が嫌になったの。生きて、いたく…ないのっ」
会社の同僚という間柄の私たちが同棲を始めたのは約1年前。同僚と言っても、私はしがないパートの事務で、はじめは入社4年目にして次期部長候補のエリート社員、その上眉目秀麗。かと言って、私はそんな身分違いの恋人関係を嘆いているわけではない。
そんなモテ要素満載な彼に好意を抱く女の子は少なくない。もちろん、はじめが私以外の女の子になびいたりしないし、私のことを大事にしてくれている…のだけど、
「…わ、私の心は汚れてるの。はじめと女の子が話しているのを見ると凄く嫌な気持ちになるの。仕事の話だって分かってるのに…信頼しているのに…ッ親友にまで嫉妬して!」
私は、醜い。
はじめも、そう思うでしょう?
仕事なんだから、しょうがないのに。
好き好んでしている訳でもないのに。
いちいち面倒な女だと思うでしょう?
「ねぇ、」
あったかい。頬に感じた温もりは流れた涙を拭うと、私の身体を包み込んだ。
「なまえは、汚れてなどいない」
「…ぇ」
「他人に嫉妬する程、俺のことを愛してくれているのだろう?」
幼い子供に言い聞かすような口調のはじめの言葉はゆっくりと私の中に染み込んできた。
「そう、だけど…でも、」
「俺も、嫉妬する。俺以外の者にあんたの笑顔を見られたくはない。」
後ろから私の肩に顎を乗せているはじめの体温がより温かく感じた。
「…それ、ほんと?」
「もちろんだ。俺はお前を…なまえを、愛しているからな」
「…はじめ!」
振り返ってはじめに抱きつけば、優しく抱きしめ返してくれた。
「ほら、そろそろ部屋に戻らないと風邪をひくぞ」
「うん」
微笑むはじめに手を引かれて部屋に戻る。
二人で座るこのソファはとても居心地がいい。きっと私は、はじめが一緒ならどこにいたって幸せなんだ。
「はじめ!」
「なんだ」
「私のこと、好き?」
「もちろんだ」
「大好き?」
「ああ、大好きだ」
「私も、大好き!」
心配になったら、何度でも確かめればいい。
『愛してる』の証を。