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□あの子と仲良くなる方法
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「はじめ、助けてー!」
「窓から入ってくるなと、何回言えばわかる」
あの子と仲良くなる方法
斎藤くんの場合
ガラッと窓が勢いよく開けられたかと思えば、飛び込んできたのはなまえ。
隣の家に住んでいる彼女がこうして俺の部屋に侵入してくるのは、いつしか当たり前のことのようになっていた。
なまえの家との隙間は30cm程しかないのだから、今の建築技術には目を見張るものがある。
隣り合ったお互いの部屋に設置された窓は丁度同じ位置にあって、二階と言えども行き来するのは容易だった。俺は、したことはないが。
その上、今日はオマケがついてきたようだ。
「総司、なにをしている」
「あ、はじめ君。聞いてよーなまえちゃんったら酷いんだよ?」
「総司が悪いんだよー!」
突如人の部屋に入りこんできた(しかも窓から)と思えば、逃げ回るなまえを総司が追いかけまわしている。騒がしい。
「だって、総司の鬼コールすごいんだもん。この前なんか着信履歴が全部総司になったんだからね!」
「だからって着信拒否することないじゃない」
「だからって部屋に押し掛けてこないでよ」
「なまえ、それは俺の台詞だ。早く自分の部屋に戻れ」
最近、総司は必要以上になまえにちょっかいを出している。気に入った人間としか関わろうとしないのが総司だ、なまえのことが好きだということは、それはもう誰が見てもあからさまに態度に出ていた。
そんな総司が、羨ましかった。なまえと俺は幼稚園の頃からの幼馴染みで、その頃から俺はなまえのことが好きだった。
こんなにも長い間、近くにいるのに、俺は自分の気持ちを伝えることができないでいた。
誰よりもなまえのことを知っている自信があるのに、なまえが俺と同じ気持ちかどうかだけは解らなかった。
だからこそ、焦った。他の男に、総司に、なまえを取られてしまうのではないか、と。
俺の言葉を聞いてしぶしぶ戻っていくなまえに続こうとする総司の腕を、咄嗟に掴んだ。
「なに、はじめ君」
「あまり、なまえをからかってくれるな」
「はじめ君には関係ないでしょ。君、一体なまえちゃんの何なのさ」
「俺は、なまえの…幼馴染みだ」
「ただの幼馴染みでしょ?役得だなんて思わないでよね。はじめ君が何もしないなら、僕がもらっちゃうよ?」
目を細めた総司が口元を歪める。その挑発的な笑みに、俺の焦りは一層濃いものとなった。
その日の夜、なまえの部屋の明かりが点いているのを確認した俺は、自分の部屋の窓を開けるとすぐにある隣の窓をノックした。
待つ間もなく開けられたカーテンと窓、そして、あーんと口を開けたなまえの姿。
俺はそこに飴玉をひとつ、放り込む。
「あ、今日はイチゴだね!」
中学の頃、ふとしたきっかけで始まったこのやりとりは今やもう習慣になっていた。
口の中で飴玉を転がすなまえの嬉しそうな顔を見て、昼間の総司の言葉を思い出す。俺はやはり、この立場に甘んじているのではないか。
幼馴染みで隣に住んでいるからと言って、なまえがいつまでも俺の傍にいる保証はどこにもなかった。
「なまえ、」
「なぁに?」
「いや、…おやすみ」
今まで何度となく、言おうとしてきた。好きだ、と。それでも言い出せないのは、この関係が崩れるのを恐れているからだ。
しかし、このままでは何もせずともなまえが手の届かぬところへ行ってしまうのではないか、と横になったベッドで頭を抱えた。
こんなにも、近くにいるのに。
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