short.

□イケてるメンズ
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友人に付き添いとして連れてこられて来たのは薄桜学園前。



なんでも、沖田総司というイケメンがいるらしく、今日はお友達への第一歩として声を掛けるのだとか。あわよくばアドレスもGETしたいと私の隣でやたら意気込んでいる我が友人。



校門の影からチラチラと様子を伺う姿は不審者そのもの。さっきから下校する生徒の視線が痛いのは気のせいかしら。


私はイケメンなんて興味ないんだ。不審者扱いだけは御免だと首に掛けてたヘッドフォンを耳にあてたついでに目も瞑ってみた。



「なまえ!きたよっ!」



肩を揺すられて目を開ければ、声は聞こえないから口パク状態に見える友人は、目からキラキラ出ちゃってるんじゃないかってくらい恋する乙女な顔してますけど。


どれどれせっかく来たんだし噂のイケメンとやらを拝見しようではないかとヘッドフォンを外して校門から覗いてみる。


我が友はすでに声を掛けようと走り出していて、ある二人組の前で立ち止まった。


ということは、あれが噂の沖田総司。ん?どっちが沖田総司だ?

 
イケメンの隣にもイケメン。背の高いイケメンと背の低いイケメン。沖田総司の情報は"イケメン"しかなかったものだからイケメンが二人いては、どっちが沖田総司だかわからない。


話しかけているのを見たところ背の高いイケメンが沖田総司のようだ、が、声を掛けられたにも関わらず返事をしている様子はなく、するりと横を抜けてこちらへ歩いてきた。


咄嗟に校門に隠れてみたけど、なんで隠れる必要があるんだろう。でも隠れてしまったもんは仕方ない。今さら顔出すのも気がひけるし。


「ちょ、沖田くんっ!」


あ、友人の声がする。沖田総司を追いかけてきたのか少し息が乱れてる気がした。


「知らない人に名前知られてるの嫌なんだけど」


意外と近くからその声がしたものだから、びっくりして振り向いてしまった。あ、背の低いイケメンと目が合った。


てゆーかいくらなんでもそんな言い方しなくたって…あーあ、案の定放心状態の我が友人。早く迎えに行かなくては、そして人間顔じゃないよ、中身だよって言ってあげよう。

 
なに食わぬ顔して去っていく沖田総司の背中を睨み付けてやってから立ちすくむ可哀想な友人の元へと一歩踏み出した。


「すまないな、総司はいつもああなんだ」


突然かけられたその声の主は背の低いイケメン君。近くで見たらさらにイケメン。なんだ、沖田総司なんかよりこっちのイケメン君のほうが中身もまともそうじゃんか。


すぐに沖田総司の後を追っていくイケメン君を見て、目の保養にはいいかも、なんて思ってしまった。イケメンなんてと思っていた私が。


気がつけばすでに私の隣に来ていたのは負のオーラを纏った我が友人。あの、暗いんですけど。


「お友達、なれなかった…」


「それよりもさ、あの背の低いイケメンは何て名前?」


「…斎藤、はじめ」


あ、慰めるの忘れてた。人間顔じゃないよ、中身だよ中身っ!と言っても説得力は皆無だっただろう。案の定、イケメンとか言うやつが言うなって言われたし。


イケメン通の友人によると、斎藤君もなかなかの有名なイケメンらしい。それでも私が知らなかったのはそれまでイケメンなど興味がなかったからだろう。


あの日あの時あの場所でイケメンへの興味がめでたく開花致しました。背の低いイケメン改め、斎藤君によって。


 
だからと言ってイケメン見たさに薄桜学園まで行くのも馬鹿馬鹿しい。


斎藤君の存在を知ってから一週間が経ったけど、結局あれ以来目の保養はできていない。


それどころか斎藤君の顔を妄想するのも難しくなってきた。彼の顔を間近で見たのはほんの数秒だし。


ショックで寝込んでいた友人も3日後には学校に来るようになったし。どんだけ泣いたのか知らないけど顔別人になってたけどね。やっと元に戻った感じ。


そんなこんなで今日は学校帰りに本屋さんに寄った。駅の近くにある大きい本屋さん。目当ては本じゃなくて、DVDなんだけど。


会計を済ませて出口に向かう途中、ふと目をやった私には無縁の参考書コーナーにいたのはあの時の背の低いイケメン君。もとい斎藤君だが。


全く会う機会ないから顔忘れるとこだったけど、間違いない。長めの前髪に少し隠れた片目。その端正な顔立ちはこの前の記憶の中の彼を鮮明にフラッシュバックさせるには十分すぎた。


よし、声掛けてみよ。耳にあてているヘッドフォンに手をかけて、斎藤君の斜め後ろを目指す。



「あんた、雪華学園だったのか」



「はぇ?」



 
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