short.

□家庭教師
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"コンコン"

少し緊張しながら扉をノックすれば、すぐに聞こえる返事


「おじゃましまーす…」



家庭教師



私はみょうじなまえ、大学1年生


新しい生活にも慣れてきた頃、家庭教師のバイトを始めたのだ

今日は記念すべき初仕事


「はじめまして。今日から家庭教師を担当します、みょうじなまえです。」


『担当されます、沖田総司です。』


机をはさんで挨拶をしたのは沖田総司、高校3年生


受験ということで、家庭教師を頼んだようだ



「とりあえず…1番最近のテストを見せてもらおうかな。」



彼が鞄の中から取り出した何枚かの紙を受け取って見れば、数学、生物、世界史、日本史……どれもまあまあの点数。


あ、英語は少し苦手なのかな?と思いながら、最後の1枚を見て驚愕する




―――古典0点。


(0点って…初めて見た。てゆーか白紙だし。名前くらい書けって…)

 



『なまえちゃん?』


衝撃の"0点"にしばしフリーズした私はふとかけられた声に我に返る


「あのねぇ、友達じゃないんだから…」


『じゃあ、なまえ先生』



(せ、先生ってのもなんかこそばゆいな…年も1つしか変わらないし)


「…なまえちゃんで。」



無邪気に笑う彼に一瞬ドキっとしてしまったが、それを悟られまいと本題を切り出す



「なんで古典0点なの?」



『先生が嫌いだから。』


なんともなしに答えたけど、なにその理由



「先生が嫌いって…まあいい。古典の問題用紙ある?ちょっとコレやってみてよ。」



素直に問題用紙を出して解答用紙に手をつける彼だけど、"名前"と書かれた場所に文字を記入しだすから


(別に名前まで書かなくても…)

と口を開きかけて、止まった


そこには確かに"みょうじなまえ"と書かれていた



「ちょ!なんで私の名前なのよ!」



『別にいいじゃん。誰に提出するわけでもないし。』



「まあ、そうだけど…真面目にやってよね」


 

『はーい。』



スラスラと問題を解いていく彼の様子を見ると、どうやら苦手なのは先生だけのよう



特に考え込むこともなく全ての問題を解き終えた彼は『できた!』と笑顔で解答用紙を渡してくる



「どれどれ…」



疲れたー、と伸びをしている彼をよそに、私は問題用紙と解答用紙を交互に見比べ、合っているところに〇をつけた



(なんだ、普通にできるんじゃん。)


安心して彼に向けば、どう?と得意げな笑顔になる




「できるならちゃんとやればいいのに」


『だからぁ』


「先生が嫌いなんでしょ?」


『そう。だから怒らせてやってるの』



そう言って笑う彼はなにやら楽しそう



(もしかしてこれは…完全なる"かまってちゃん"?)


本人には言えないけど



「んーと、じゃあ…あ、志望校はどこなの?」


『薄桜大学。』



「…へ!?」



『なに?なまえちゃんも薄桜大学?』


動揺する私を尻目に、たちまちニヤニヤしだす彼



「"も"ってなによ!まだ受かってないでしょ!」


 


『うん、受かる予定。なまえちゃんの頑張り次第。』


「あんたの頑張り次第でしょ!」



彼が急に真剣な顔つきになるので、あんたとか言ってマズかったかな、と思ったのも束の間



『じゃあ…頑張るからさ、お願い聞いてくれる?』


「なに?」


『受かったらご褒美。』


「だからなにを?」


『チューして。』


「は!?」


『うそ。僕と付き合って?』


「はあ!?」



動揺するな、私!


そんなの自分で告白してるようなもんだ


彼の笑顔に惹かれてる自分がいる、と


彼の事をもっと知りたい、と





「…じゃあ、受かったら、ね!」


『ほんとっ?約束だよ?』


よーし、頑張ろー!とか言いながら全く勉強する気配がないのは気のせいだろうか



「ちょっと、頑張るんじゃないの?」


『なに?そんなに僕と付き合いたい?』


「ち、ちがっ…!」


『違うの?』


「っ…!」


私が言葉に詰まれば、見つめられるのは意地悪な笑顔


「年上からかわないっ!」


『はーい、なまえ先生?』


「もう…」


と口を尖らせながらも毎週ここに通うのが楽しみになった私なのでした





 

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