ひまわりになったら
□04.
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始業式から2週間。
新しい学校とマネージャーの仕事にも慣れてきた。
そして今日は、この高校に来て初めての学校行事―――
ひまわりになったら 4
某テーマパークへの遠足。この高校では毎年三年生の恒例行事らしい。
「ネズミーランド久しぶりだなー!私、幼稚園以来だあ」
「なまえちゃんは引っ越しちゃったからね」
「覚えてないくせに」
「なにゆえ総司が2組のバスに乗っている」
「冷たいなあ、二人とも。僕、なまえちゃんのとな…」
「残念だけど、なまえの隣は私の席よ。」
「お千、どうぞー!」
「総司、迎えが来たようだ」
「総司ィ!!!早くバスに戻れっ!出発できねえだろ!」
土方に引きずられるように、しぶしぶ1組のバスに戻っていく総司。最近の総司はなまえにまとわりついている。
相変わらず女子嫌いのようだが…なまえは例外のようだ。斎藤はバスに揺られながら、分かりやすいやつだな、と思った。
「てゆうか、なんで一くんがいるのさ」
「私もいるわよ?」
なまえと二人でまわりたかった総司は、斎藤とお千といういらないオマケがついてきたことで不機嫌だった。
なまえがこの二人も一緒がいいと言ってきかないので、仕方なく四人でまわることになった。
「ねえ、あれ乗りたいっ!」
子供みたいにはしゃぐなまえを見て、二人きりだったらどんなに楽しかったか。そう考えずにはいられなかった。
日が暮れて、集合時間になると生徒達は次々とバスに戻ってきた。
皆、手にはお土産の袋を持っていて、バスの荷物置きはいっぱいになっていた。
総司はまた2組のバスに乗り込んでいたが、言うまでもなく土方に連行されていった。
バスが走り出すと、疲れもあってほとんどの生徒は眠りについた。やけに静かなバスの車内でなまえはケータイにぶら下がったストラップを見つめていた。
「みょうじは疲れていないのか?」
なまえは急に話掛けられて少し驚いたが、通路を挟んだ隣の席に座る斎藤を見ればなまえの手に握られたケータイを見ていた。
「"それ"は、総司と一緒に買ったものだろう?」
"それ"とはケータイについたストラップ。元々ストラップは付けない派だったが、先ほど半ば強制的に総司につけられた。総司のケータイにも同じものがついている。
「嫌、なのか?」
斎藤には今の自分がどう映っているのだろうか。総司とおそろいのものを持たされて迷惑そうな顔にでもなっていたのか。
迷惑なんかじゃない、だけど…
なまえは斎藤に自分の気持ちを話してみることにした。
幼稚園まで総司と一緒にいたこと、再会したものの総司は自分のことを忘れてしまっていたこと。
斎藤は始業式の日になまえとお千が話しているのを聞いていたので粗方の事情は知っていたが、黙ってなまえの話しを聞いていた。
「総司が私のこと好きになってくれるのは嬉しいことのはずなのに、よく分からない」
なまえの話し声だけがしていた車内に再び静けさが戻った。
「みょうじは、総司のことが好きではないのか?」
なまえは少し考えたような顔をしてから「好きだったよ、ずっと前から」と言って寂しそうに笑った。
「総司は本当に困ったやつだな」
斎藤が呆れたように笑うと、なまえの視線に気づいた。
「なんだ?」
「一くん、笑うと可愛いね」
突然言われた予想外の言葉に思わず顔を背けた。暗い窓に車内の様子が反射していて、自分の後ろになまえの笑う顔が見えた。
なまえに寂しい笑顔をさせているのは総司だが、幸せな笑顔にさせてやれるのも、きっと総司だけなのだろう。
「俺には、なにもできないようだ」
斎藤は自分の無力さを感じてゆっくり目を閉じれば、バスの揺れに身体を預けそのまま眠りについた。