story.

□O型の彼
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私はしがないファミレスの店員。大学に入ってから始めたバイトだけど、一年も経った今では新人バイトの指導なんかも任されたりしちゃっている。

平日の夕方。ランチのお客さんも帰っていって、ディナーで混むまでの数時間。この時間がうちのファミレスで最も暇な時間だ。

こんな時はだいたい、バイトが店番を任されて店長や社員さんはまとめて休憩に入って、バックヤードで昼食だか夕飯だかわからないご飯を食べていたりする。

お客さんもいないので、レジの周りの整理や普段行き届かないところの掃除をしていると、一人の青年が歩み寄ってきた。

沖田総司。私と同じ時期にこのファミレスでバイトを始めた、やたら女性客に人気のある店員である。

「サボってると店長に言いつけるよ」

「だってお客さんいないし。店長達もいないし」

そう言ってただ私の隣に突っ立っている彼は明らかに時給ドロボーだ!お客さんいない時は掃除をするって…

「あのさ、コレ食べる?」

目の前に差し出されたのは、小さな一口チョコレート。ほんとに小さいので、口に入れれば数秒で証拠隠滅できてしまうだろう。でも、仕事中にお菓子を食べるなんて…!

「じゃ、じゃあ、貰っておくよ。後で食べ…」

「なんで?今食べちゃえばいいじゃない。ヨダレ出てるよ?」

「で、出てないっ!」

「ほら、誰も見てないし」

そう言われて辺りを見渡せば、お客さんが入ってくる様子もなければ、店長達が休憩から戻る時間もまだまだ先だ。

口に入れて消化しちゃえば誰にもバレないし…コレくらいいいかなっ!



…なんて、甘い考えだった。

誰も見てないなんて嘘だ。一番見られてはいけない悪魔が見ていることを忘れていた。

「あー、食べちゃった?」

「え」

「どうしよっかなあ。店長に言いつけちゃおうかなあー」

「騙したな…」

「なんのことかなあ?」

にやりと微笑む彼に嫌な予感しかしない。

「だいたいっ!チョコくれたのはっ…」

「僕は食べてないしー」

どうにか見逃してもらえないかと奮闘する私の前で彼は「どうしよっかな〜」なんて腕組みしているけど、絶対に言いつけるつもりだ!

もう腹をくくるしかない!一生懸命仕事してれば店長もきっと許してくれるハズだ!そうとなれば私は早速掃除の続きを始めた。隣で立っている悪魔なんて無視だ、無視!しゃがんで、ドリンカーの下の棚の拭き掃除をいていると上から声が降ってきた。

「あ、そうだ」

「…なに」

なんだか有罪判決を待っている気分だ。恐る恐る返事をすれば、彼もしゃがんで目線が合わさった。

「ほっぺにチュー、して」

「は!?」

「そしたら、さっきの内緒にしてあげる」

「嘘だ!」

「ほんと」

「嫌だ!」

「ほら、今度こそ誰も見てないよ?」

そう言いながらほっぺをツンツンしている彼と、心臓バクバクな私。

深呼吸、深呼吸。なるべく、平然を装うんだ…!

「こ、これも、内緒にしてよねっ…!」

彼のほっぺに一瞬触れた私の唇に、ほんのり感じた温もりが私の頬をさらに熱くした。

「口止め料。今度はほっぺじゃ済まないよ?」

なんて笑いながら立ち去るイジワルな彼は、O型の彼。


※注!O型の方がイジワルだという決めつけではありません。

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