story.

□E
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あれから数日後、私達双子は人里離れた山奥に身を寄せていた。



あの日、はじめは自身の出生と今後起きることを聞いて、父さんに祓ってくれと頼んでいた。



でも、私はそれを止めた。



私が祓う、と言って。



それから話し合って、はじめが完全に覚醒してしまった時に私が祓うことになった。



危険だと言われたけど、私は少しでも長くはじめと居たかった。



「なまえ、俺はあの時嬉しかった」



「え?」



「お前が俺を祓うって言ってくれた時だ」



「私には、それしかできないから…」



「俺は、なまえが好きだ。小さな時からずっと…」



「私も、はじめが好きだよ」



「兄妹としてではない、女としてだ。」



「私も、そうだよ」



不謹慎かもしれないけど、はじめと私の父親が違うって聞いた時、もしかしたら血が繋がっていないんじゃないかって期待した。



だけど、はじめが悪魔でも人間でも双子の兄でも関係ない。私は、はじめのことが好きだ。



「なまえ…」


 
初めて抱きしめられたはじめの腕の中は、とても居心地がよかった。



ああ、私幸せだよ。好きな人とこうして触れあえるなんて、一生無理だと思っていたから。



一度だけ交わした口付けは、これでもかというくらい私の心をを満たした。



「はじめ、幸せ?」



「ああ、幸せだ」



「よかった」



はじめと双子でよかった。








ここに来てから一週間。


―――ついに、その時が来た。





「ぐっ…ぅ、なまえ!頼むっ」



「はじめっ…」



それはちょうど太陽が沈んだ頃だった。



胸元を押さえながら、苦しそうに歩いてきたはじめを支えれば、祓ってくれと頼まれた。



はじめの耳は尖り、牙と尻尾が生えて、身体中からあの日見たのと同じ紫の靄が滲み出ていた。



私は胸元からロザリオを取り出す。十字架に手を掛ければ、はじめもそこに手を重ねた。きっと、これに触れるだけでも辛いだろうに。



「なまえ、愛している…生まれ変われるなら、次は悪魔でも双子でもない人間に…必ず見つけ出して、きっと幸せにする…」



「うん、約束だよ?」


 
「ぐっ…ああ、約束だ…!すまない、はぁ、もう限、界…!」



「はじめ、愛してる」



私は降魔経文を唱え始める。



途端に、はじめの息遣いが荒くなる。



早く詠み終えてはじめを楽にしてあげたい。



でも、詠み終えたらはじめは死んでしまう。



矛盾した2つの気持ちが入り交じって、私の頬を涙が伝った。



ぽたり。一粒、また一粒と雫がはじめの頬に落ちれば、はじめの指がぎこちなく私の頬を拭ってくれた。



苦痛に耐え、歪めた顔で、必死に笑いかけようとしてくれていれる。



私も、悲しみと涙でぐちゃぐちゃになった顔で下手な笑顔を作った。




はじめは、自分の運命を受け入れた。



自身が悪魔であることを認め、自ら祓われることを望んだ。



それなら、私も自分の運命を受け入れなければいけない。



私は祓魔師で、悪魔であるはじめを祓う。



私達は今、戦っている。



お互いの宿命を、果たす為。




経文が最後の節に差し掛かった時、はじめの唇が"ありがとう"と動いた。



私は経文を途絶えさせないように、必死に笑顔を作って頷いた。


 
「…汝、この世に、蔓延ること、を許す、まじ…」



読み上げてすぐ、はじめに口付けした。



苦痛に耐えて強張っていたはじめの身体から力が抜け、私の手に重ねられていた手が床に落ちた。



悪魔の力だけが消えたのだろうか、はじめの肉体は消えずに残っていた。



はじめの首にロザリオをかけて、その手に十字架を握らせた。



「…お守りだよ、はじめ」






私はこれからも祓魔師として生きていく。



手に握るのは、はじめの降魔剣。



はじめ程強くはないけれど、一人で戦うよりもずっと心強いよ。



目を閉じて浮かぶのは、いつも私を守ってくれた背中。



好きだと言って抱きしめてくれた時の温もり。




「行くよっ…!」




私達は今、ひとつになる。




(終)
→あとがきあります!
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