story.
□B
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あれから数日。はじめの傷は跡形もなく、すっかりきれいに治った。
家に帰ってから拒否するはじめに無理矢理抗生剤を注射したけど、その時はほとんど治りかけていたようだった。
祓魔師であっても魔傷に対する自己治癒力があるというのは、聞いたことがなかった。
だからこそ魔傷に対処する薬が作られているし、専門のドクターもいる。
はじめが自分でヒーリングを施したとも思えない。それに、それだけで治る傷には見えなかった。
じゃあ、どうして…
気になって家の倉庫で関係ありそうな本を片っ端から調べてみたけれど、結局なにもわからなかった。
普段あまり使わない脳みそを使ったからか、少し頭が痛かった。
「なまえ、どうしたこんなところで」
「あ、ちょっと調べもの」
「勉強もそれくらい熱心にやればいいんだが…何を調べている?」
「それは…」
私が言うべきか迷っていたら、先に口を開いたのははじめだった。
「俺のこと、だろう?」
それに目を逸らしがちに頷けば、あることを教えてくれた。
はじめの話によれば、悪魔の声が聞こえるようになった頃から傷の治りが異様に早くなったらしい。
でも自分の身体になにが起きているのかは、自分でもわからないと言っていた。
それでも、生活で困ることはないから父さんや母さんには黙っているように言われた。
「なまえちゃん、おはよ」
「あ、総司おはよ!昨日はごめんね」
「ん、いいよ。はじめ君のシスコンは今に始まったことじゃないしね」
「あはは…」
はじめは小さい時からずっと、私を守ってきてくれた。
詠唱する私を守るために、はじめは剣での退魔を極めていて、最上級祓魔師からのお墨付きももらっている。
それでも私と同じ中級の資格なのは、剣以外の退魔法を身につけていないからだ。
銃撃と詠唱は私が得意だから私に任せるのだとか。
それに常に二人で戦うのだから、自分には剣さえあれば十分だと言っている。
はじめの剣は誰よりも強いから私も安心して詠唱に集中できるし、その点で私達双子は最高のパートナーだと思う。
「ねえ、はじめ」
「なんだ」
「好きな人、いる?」
「いてもしょうがないだろう」
「そうだよね…」
私達は祓魔師の家系に生まれた以上、血筋を守る為に相手は選べない。
誰かを好きになっても、その恋は叶わず苦しいだけ。
私だって本当は、好きな人と結婚したい。
でもこれは私の運命。諦めはつけたつもり。
それよりも、はじめも不本意な相手と結婚するのかと思うと無性に胸が締め付けられた。
はじめには、幸せになってほしいと思った。
できれば、ずっと私が傍にいたいと思った。
でもこれは血筋が云々以前の問題だ。私達は双子なんだからお互いを好きになるなど、人間としてタブーなんだ。
「帰ろっか」
「ああ」
隣を歩くはじめの手に触れれば、そっと繋いでくれた。
小さい頃からずっと繋いできた手は、いつの間にかはじめの方が大きくなっていた。
やっぱり男の子なんだなって思う。
ずっと、一緒だと思ってたのに。
本当に双子なのかと思う。
その深い黒髪も濃紺の瞳も生真面目な性格も細いけど男らしい体格も、はじめの全てが私とは正反対のような気がした。
だから、惹かれてしまうのかもしれない。
欲しいと思ってしまうのかもしれない。
イケナイことだと、わかっているのに。