story.

□A
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「なまえ、出かけるのか?」



「あ、うん」



こっそり出掛けるつもりだったのに…玄関ではじめに捕まってしまった。



「また総司か?」



「そうだけど、」



「ならば俺も行く」



そう言うなり靴を履き出すはじめ。彼は言い出したら聞かないのだ、厄介なことになった。



「はじめ君、また付いてきちゃったの」



「悪いか」



「悪いよ」



こうして3人で出掛けるのはかれこれ7回目だ。



「ことごとく僕の邪魔してくれるよね、お兄さん」



「やめろ、俺には総司の兄になった覚えも、その予定もない」



沖田総司は私のクラスメイト。ちなみにはじめとは双子だから同じクラスになったことはない。



総司はどうやら私のことが酷くお気に入りらしく、学校でも一緒にいることが多い。



休日にはたまにこうして出掛けることもあるのだけど、もれなくはじめが付いてくる。



私のことが心配だとか言ってるけど、私には総司に対する恋愛感情は毛頭ない。



どうせ私は、親が決めた見ず知らずの祓魔師と結婚させられるのだから。


 
そしてはじめが斎藤家を継ぐのだろう。どこかの祓魔師のお嫁さんを迎えて、ね。



「なまえちゃん、僕あのお店行きたい」



「うん、じゃあ行こっか」



「…なまえ、」



総司に手を引かれて歩き出したのだけど、すぐに逆の手をはじめに捕まれてしまった。



私が振り返ると、はじめは顔をしかめてずっと遠くを見つめていた。



「はじめ?」



「行くぞ、」



「え、あ、ごめんね総司、また今度!」



ぐいぐいと手を引かれて、ひたすら走る。はじめは、ずっと先を見つめたまま。



はじめはなにかを察知している。それが何かは私には解らない。



はじめには類い希な感知能力があった。はじめ曰く、悪魔の声が聞こえるのだとか。



人間に憑依した悪魔の声なら誰にでも聞くことができる。しかし、悪魔単体の声を聞くことができる人を少なくとも私は、はじめ以外に知らない。



それも、かなり離れていても感知できるのだから、すごい。



やっとたどり着いた薄暗い路地。そこには、犬の死体に憑依したと見られる悪魔がいた。


 
他の犬も取り込んだのか、普通の大型犬より大きくて頭が2つある。



辺りには食い散らかされた犬の残骸と、腐敗臭が立ち込めていた。



「なまえ、頼む」



「わかってる」



私は首にさげていたロザリオを襟元から取り出して、十字架部分を握って降魔経文(ごうまきょうもん)を読み上げる。



途端に苦しみ出した目の前の悪魔は私に狙いを定めて攻撃をしてくる。



はじめは私と悪魔の間に立ちはだかって、その攻撃を受け流している。



はじめは刀の柄の部分だけになっているものを常に携帯していて、そこに気を送り込むと刃が現れるようになっている。



その刃自体ははじめ自身が練り上げた気だから、悪魔にしか物質的攻撃はできない。



ちなみに私の主な退魔法は銃撃なのだけど、いろいろと誤解を招くので任務以外では持ち歩いていない。



代わりではないけど、母から受け継いだこのロザリオを持っていることで、降魔経文の威力は数倍にもなる。


 
経文を読んでいる間は無防備になってしまう。その為、はじめの援護は必要不可欠だ。



「……汝、この世に蔓延ることを許すまじっ…!」



私が最後の節を唱え終えると、悪魔は断末魔と共に息絶え蒸発するように消えていった。



「はじめ、ありがとう」



「当然のことをしたまでだ」



ふと見たはじめの腕に、火傷のような跡があることに気づいた。



「それ…」



「大したことはない」



そう言って背中に隠すはじめの腕を思わず掴んだ。あの火傷のような傷は、間違いなく先ほどの悪魔につけられたものだ。死体に憑依する悪魔につけられた傷は、そこから腐食していってやがて死に至る。



「だめだよ、ちゃんと手当てしなくちゃ!」



「っ!いいから、」



尚も見せようとしないはじめの腕を無理矢理引き寄せた。応急措置くらいなら、私のヒーリングでもできるはずだ。そしたらすぐに家に帰って、抗生剤を注射すればいい。



そう考えながら、傷の上に手をかざした。でも、そこにはほとんど消えかけた傷しかなかった。私はまだ、なにもしていないのに。



「、どうして…」



はじめは気まずそうに、私から目を逸らしていた。



 

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