story.
□沖
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高校3年の夏、私は…
死んだのでしょうか?
トリップ&転生シリーズ〜沖田総司編〜
目が覚めるとそこは、想像していたものとは全く違った…
「ここが、天国なの…?」
「じゃあ、僕も死んだってことなのかな」
「あの、誰ですか?」
「それはこっちの台詞だけどね」
声が聞こえた後ろを振り向けば、縁側に座ってるイケメンが一人。
どうやらここは天国ではなく、人様の家らしい。
「お、お邪魔しましたあっ!」
とりあえず立ち上がってみたものの、さて、出口はどっちだろうか。困った、ここまでどうやって来たのかも思い出せない。
「あの、」
「君が帰るのは、あそこでしょ?」
そう言ってイケメンが指差す先には……あの、空しか見えません。
「君、庭にいきなり落ちてきたんだよ」
よく生きてたね、ってソレ笑いながら言う台詞ですかっ?でも、そんな笑顔が素敵だったから許しちゃうよ!
と、いうことで私は死んで生まれ変わったのか、時空の穴にでも落ちたのか、今は江戸時代にいるみたいです。
過去に生まれ変わるってアリなのか…トリップとか信じてないんだけど。
最後の記憶は…あ、思い出した。駅の階段を降りてる途中で、横を急いで降りてきた人とぶつかって足を踏み外したんだった。
でも、どこも怪我してない。痛くない。落ちる途中にトリップしたとか?…まさかね。
第一発見者のイケメンな彼は沖田総司さん。そしてここは松本先生という方のお家、というか診療所?らしい。
私は帰れるまで松本先生のところで保護してもらうことになった。
沖田さんは労咳という病気で療養中らしい。労咳…聞いたことがない。
咳が出る病気のようで、沖田さんは噎せるように咳込むことがある。
こっそり松本先生に治るのかと聞いたら、静かに首を横に振っていた。今は薬を飲んで安静にしているのが大切らしい。
「退屈だったんだよね、君が落ちてきてくれてよかったよ」
今日も沖田さんと縁側に並んで座ってお話をする。
江戸時代に来てからたぶんそろそろ1ヶ月くらい経つ。
あれから毎日のように落ちてきた場所でジャンプを試みるも、未来に帰れることはなかった。
落ちてきたなら飛び上がるしかない!と思ったのだけど、どうやらそういう問題ではないらしい。
沖田さんはたまに、松本先生の目を盗んで外に連れて行ってくれた。
お団子を食べたり、お饅頭を食べたり、お団子を食べたり…て、食べてばっかりだな、オイ。
そして、いつも帰りに金平糖を買ってきた。
結局松本先生にバレて怒られちゃうんだけどね。
沖田さんはちっとも反省してないみたい。
だけどこの前、松本先生が私が来てからの沖田さんは随分楽しそうだって言ってた。
それがなんだか嬉しかった。
私には病気を治すことは出来ないけれど、沖田さんに少しでも多く笑ってほしいと思った。
沖田さんは毎日いろいろなことを話してくれた。だから私もたくさん話した。
子供時代のことから、少し前のことまで。
お互いにわからない言葉を教えてあったりして、話したいことがたくさんあって、時間がいくらあっても足りないくらいだった。
沖田さんは、たくさんの大切な人とお別れをしたらしい。亡くなってしまった方もいるけど、まだ頑張ってる人もいるって言ってた。
その人達のことを話す時の沖田さんの表情はどこか誇らしげで、見ていてなんだか微笑ましかった。
私も、未来には家族や友人がいる。みんな、大切な人だ。
でも今は、沖田さんも私にとって大切な人。
毎日毎日、たくさん話して、たくさん笑った。
沖田さんが笑ってくれてると、私の寂しさも和らいだ。
未来には帰れるならば帰りたい、でも今は沖田さんの傍に居たかった。
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