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□たかが一粒されど一粒
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「あれ…?」
ない。確か今日の朝ペンケースに入れたはずなのに…
「どうかしたの?平助、もぐもぐ…」
「なまえ、お前なあ…授業中に飯食うなよ!」
「だって、むしゃ、先生いないし、むしゃむしゃ…」
美術の授業。生徒は各自、自由に作業を進めていて、先生は美術室にいないことが多い。…そんなんでいいのか?
「食いながら喋るなよ…あれー、やっぱないかぁ…」
「なにがないの?」
「のりだよ、のり。なまえ持ってるか?」
「ごはん粒ならあるけど。」
「それお前の弁当だろ!いらねーよ、そんなもん!」
「バカだね、平助。ごはん粒を笑う者はごはん粒にうなされるよ。」
「うなされるってなんだよ!それを言うなら泣かされるだろ!」
他にのり持ってそうなやつは…千鶴はさっきカッターで怪我してはじめ君が保健室に連れて行ってたからなあ。…総司に一応聞いてみるか。
「なあ、総司。のり持ってる?」
「え?ごはん粒でいいならあるよ」
「…いや、やっぱいいや。」
なんでごはん粒なんだよ!ごはん粒でいいワケねぇだろ!なまえも総司もふざけやがって…!
ちょっと面倒だけど、職員室に行けば先生がいるかもしれない。俺の超芸術的作品にはのりが必要不可欠だからな。
ガララ…
「…失礼しまーす」
「平助、授業はどうした。」
「あ、土方先生。美術で使うんでのり探してるんですけど…」
職員室を見渡してみてもどうやら土方先生しかいないらしい。美術の先生はいったいどこに…
「のりだァ?ンなもん、ごはん粒でもくっ付けとけよ。」
「…!!!」
ま、まさか…土方先生まで!そんな… !どうなってるんだこれ!なにが起きてるんだ!俺の知らない間にごはん粒が接着剤としてこんなにもメジャーになっていたなんて…!
あ、やべ。動揺してつい廊下を走っていたら保健室から戻ってきた千鶴とはじめ君に出くわした。
「平助、廊下は走るな。」
「ゴメン、はじめ君。それよりさ、のり貸してくんない?普通のやつ。」
「普通の?俺のはブランド物だが…」
「え?いーよ!全然オッケー!」
のりにブランドとかあんのか?さすがはじめ君!めっちゃ接着力強いのかな。アロンアルファ的な…
「ほら、コシヒカリだ。」
ぇえぇええぇ!!結局米じゃんんんんー!!!ブランドって何!?ブランド米のことォォォー!?
「どうした、平助。魚沼産じゃ嫌か?」
問題ソコじゃないぃぃぃ!まじでどうなってんだこれェェ!はじめ君までごはん粒をのり代わりに使ってるなんて…もうこの世にのりは存在しないのか…?いつの間にかフロッピーの時代は終わってUSBが主流の世の中ように…!!
ごはん粒を笑う者はごはん粒にうなされるって…まじでうなされてるよ!やべーよ!ごはん粒の神様ごめんなさいぃぃぃ!!
「…くん!平助くんっ!」
あれ?千鶴の声か?俺を呼んでる…
「平助くん、起きて!もうお昼休み終わりだよ?」
「え?…あ、」
そうか俺、昼飯食べた後うたた寝して…
「ってことはアレ夢!!?」
「平助くん?」
「いや、なんでもねぇよ!よかったよかった…」
そうだよな、夢だよなー。なんかおかしいと思ったんだよ。
「平助くん、ごはん粒…」
「ぇえッ!?」
「ついてるよ、ほらココ…」
「…ぁ」
千鶴の手がスッと伸びてきて俺の頬に少しだけ触れた。…グッジョブごはん粒!そして俺!!
「次の授業なんだっけ?」
「ふふ、平助くんまだ寝ぼけてるの?美術だよ」
「美術!?」
たまにはごはん粒にうなされてみるのも、悪くないかもしれない。