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□春と花粉と時々くしゃみ
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眠い。眠すぎる。

何故こんなにも眠いのか。

その理由を考えようにも、眠気が思考回路を占領していてボーッとしてしまう。

「あ、春だからかな…もぐもぐ」

「なにか言った?」

独り言のように呟いたら向かいの席に座ってる総司が反応した。

私たちは二人で総司のお姉さんが作ってくれたお昼ご飯を食べている。

こうして総司の家で食事をするのは別段珍しいことではなく、小さい頃から染み付いたスタイルだ。春休みの今はほぼ毎日のようにお邪魔をしてい、る…

「なまえ、食べながら寝ないでよ。子供じゃないんだから」

「いや、でもね、究極に眠いの。今なら2秒で寝れる自信あるもん」

そんな私に呆れたのか、総司はもくもくと食事を再開した。私はといえば睡魔と奮闘しているけど、このままでは確実に負けだ。すでにKO寸前だ。

ポカポカと春の暖かい陽射しが射し込んでいる窓の外を何気なく見ていたら、今朝鼻水が出るので薬を飲んだことを思いだした。

花粉が飛びはじめているんだ。そして、眠いのは薬のせいだ。花粉と薬とポカポカ陽気が睡魔とグルになって私を眠りへと引きずり込もうとしているんだ…!

「あの、さ…」

総司が箸を置いたから食べ終わったのかと思ったら、なにやら深刻そうな表情で話しかけてきた。

「んー?」

だけど、私の眠気もかなり深刻な状況だ。総司の話の途中で眠ってしまう可能性も否めない。

「ずっと言おうと思ってたんだけど…」

総司が、私に?一体なんだろう。

この雰囲気はもしかして、もしかすると…ッて、なにを私は期待してるの!?バカなの!?眠いの!?超眠いよー!!

「僕、引っ越すことになったから」

「そうなんだ〜…って、え!?引っ越す?どこに?」

「イギリス」

「イギリスっ!?はあ?嘘でしょ!?」

総司は目線を斜め下に落としたまま一切表情を崩さない反面、私の眠気はぶっ飛んでいた。さっきまであんなに眠かったのが嘘のようにアドレナリン全開だ。

「…ほんと、なの?」

「お姉ちゃんが結婚するって言ったでしょ?」

総司は年の離れたお姉さんと二人で暮らしている。私も小さいころからよく遊んでもらった、とっても美人なお姉さんだ。

「うん、聞いたけど…」

「旦那さんが転勤でイギリスに住むんだって。そしたら、お姉ちゃんが僕を一人置いていけないって」

「そ、そうなの…」

あの優しいお姉さんのことだ。本当に総司のことが心配で仕方ないんだろう。

「…引っ越し、いつなの?」

「わかんないけど、近いうちに」

総司がイギリスに引っ越し…もしかしたら、もう一生会えないかもしれない。

そうは言っても急に引っ越すなんて…それも外国なんて。眠気は覚めたはずなのに思考が追い付かない。もちろん実感なんて全くない。

そうだ!お姉さんが総司を一人置いていくのが心配なら、ウチに住めばいいじゃないか!総司とは小さいころからの付き合いだし、家族みたいなもんだし、ウチの親も絶対に賛成してくれる!

「あのさ、総司…ひとつ提案があるんだけど、」

「あ、カレンダーめくるの忘れてた」

私が精一杯の提案をしようとしたのにもかかわらず、総司は唐突に立ち上がると壁にかかっていたカレンダーをめくった。

ビリリ…

確かにカレンダーめくるのって忘れちゃうよね。月が変わって2・3日してから、あー!そういえば〜みたいな感じで気づいて…って、

「……あ!」

総司がめくったカレンダーを見て気がついた。総司の肩が笑いをこらえて震えている。

今日は4月1日。

…エイプリルフールだった。

「こんの…総司ィィィー!!」

「相変わらず、騙されやすいよね」

「笑ってんじゃないわよッ!」

「だって、なまえのあの顔ッ…!」

本気で、嫌だと思ったのに。

だけど、本当に嘘でよかったと思った。

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