あの日々とは程遠く。

□流す涙さえ
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幼い頃の話。
まだ、魔法少女を知らない頃の。

「お姉ちゃん!お帰り!」

「ただいま水樹。お母さんと、お父さんも、ただいま」

まだ小学6年生だった、紅葉。
そして、その一個下の、水樹。

その頃は、まだ両親も生きていた。
一家四人で、幸せに暮らしていた。

「こんな日々が、ずっと続けばいいなぁ」

そんなことを思っていた。

そんなある日。

街へ、買い物に出掛けた時の事だった。

「ねぇ、お母さん、あれって、何?」

ふよふよと、何かがこっちへ向かってきていた。

それは、紅葉にも見えた。
ふよふよと浮いた、変な生き物。
浮いて、近付いてきて…。

何かの、武器を持っているような、気がした。

でも両親は、全く見えない。

「全くもう、冗談言わな…………」

次の瞬間、回りから悲鳴が溢れかえった。

人が。
お母さんが。
道路に倒れていた。

ぐったりと倒れていた。

信じられなかった。
さっきまで元気だったのに。

あれは、お母さんじゃない。
お母さんに似た、女の人。

そう思い込んでも、流れてくるのは大量の涙。

そう思っていたら、さっきまで横にいた、お父さんまでも、重なるように倒れこんだ。
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