りりぃのお部屋

□バニーちゃんのお誕生日
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「なあ、バニー」
もうすぐ終業時刻を迎えようという夕方、暇そうにモニターを眺めていた虎徹がふいにバーナビーに呼びかけた。
「なんですかおじさん、僕はバニーじゃなくてバーナビーですけど」
「今日さ、バニーの誕生日だろ? なんか欲しいものない?」
「……ああ…バニーじゃなくてバーナビーですが…そうでしたね」
今初めて気づいたという返事を返したバーナビーだったが、気づいたところで特に興味がなさそうな顔をする。
「別に何もいりませんよ、おじさんが買えるものでしたら自分で買えますし、それ以前に前にも言ったとおり誕生日なんてどうでもいいですし」
虎徹のほうに少し向いていた体を元に戻し、再びモニターに向き直ったバーナビーが素っ気なく言った。本当にどうでもよさそうな口ぶりに、虎徹は少し眉を曇らせた。
「んなこと言うなよ、せっかくお前を生んでくれた両親に申し訳ないと思わねえの?」
まるで自分が傷ついたかのようにしょぼくれた虎徹の台詞に、バーナビーもぴくりと眉を動かす。親を引き合いに出されるとさすがに弱いところがある。
「それは…感謝していますが……だからといって祝ってもらわなくってもいいということです」
先ほどよりは少し柔らかめなもの言いではあったが、それでもまだ虎徹はしょんぼりして横目でバーナビーを伺っていた。
「でも、おじさんは祝いたいもん…せっかくお前と出会えたのに……」
「もんってやめてください、いい年して」
だらしなく体の力を抜いた虎徹は、机に顎を乗せると口を尖らせた。
バーナビーはそんな虎徹を無視して、モニターに視線を送っていたが、いっこうに起き上がろうとしない虎徹の様子にはあと溜息を吐いた。
「祝ってくれるというなら、プレゼントはせめて自分で考えて下さいよ、全く考えもしてくれないなんて適当すぎます」
バーナビーは、だらしなく机に顎を乗せたままの虎徹のほうへ身体ごと振り返る。虎徹は、そのままの姿勢でバーナビーに唇を突き出して見せた。
「だぁって、何だと喜ぶかわかんねんだもん、気の利いたことも考えられねえし」
拗ねたようなその様子に、バーナビーの顔が呆れの色を滲ませた。
「だからさー考えたんだけどよ、こんなのどう?」

突然がばりと身体を起こした虎徹は、ついさっきまでなにやら書いていた紙をバーナビーの目の前に差し出した。それは、てっきりまたラクガキでもしているのだろうとバーナビーが思っていたもので…しかし、そこには

1:おじさんがばにちゃんのをぺろぺろはむはむしてあげる
2:おじさんとしっくすないんであそんじゃう
3:おじさんがそーぷごっこでばにちゃんの全身あらってあげる
4:おじさんが上にのってこしふってあげる(ばにちゃんマグロでもいいよ)
5:あさまでばにちゃんがすきなだけおじさんにしてもいい

「どれがいい? 誕生日だし特別に選ばせてやんよ?」


満面の笑みは、どう考えても本気のそれではなくて。
あからさまにバーナビーを怒らせようという笑い方。
「………」
案の定、バーナビーが顔を伏せてわなわなと震えだした。それを見てあははと大口を開けて笑おうとした瞬間、虎徹はどこかで地鳴りのようなものを聞いた気がした。
「え?」
バンっと音がして、虎徹の前でバーナビーが立ち上がったかと思うと、虎徹の持っていた紙を取り上げ逆に虎徹にそれを示していた。
「してくれるんですよね?おじさんが」
「……え?え??」
バーナビーの目は据わっており、怒りのためかこめかみがひくひくと震えている。
「ばにー?お、落ち着こうな? ちゃんとおじさん、プレゼント考えるから…」
冷や汗が流れるのを感じながら虎徹が引き攣った笑いを顔に張り付かせる。しかし、突然ぱっとバーナビーが消えたと思ったら、自分の身体が浮いていることに気付いて虎徹はパニックになった。
「うおおお???」
カツカツという音とともに、視界に入った床が揺れていた。
虎徹は、バーナビーに小脇に抱えられていた。
「おい?バニー?!」
状況がわからず自分を抱えるバーナビーに首を向けるが、バーナビーはずんずんと歩いていって聞きもしない。駐車場へ向かう社内で幾人もの社員にあい、妙な顔をされるがバーナビーはそんなことは気にも留めない。虎徹がただただ、乾いた笑みで誤魔化すだけだ。
「うおっ」
駐車場までやってくると、バーナビーはサイドカーへ虎徹を放り投げて自分は運転席へとまたがった。
「おい、バニー?」
なんとかサイドカーの中で体勢を立て直した虎徹が、バーナビーに非難の声をあげると、バーナビーはひらりと一瞬さっきの紙を見せ、たたんでポケットにしまいこんだ。
「おじさん、選んでいいんでしたよね?」
「…え」
「では、フルコースでお願いします、1から順番に。心配しなくても明日の欠席は僕がロイズさんに適当に言い訳してさしあげますから」
にっこり微笑んだバーナビーの顔は、本気のそれ。血の気の引いた虎徹の顔からは、熱くもないのに一気に汗が噴出した。

「だからそれは、冗談だってーーーのーーーー」

だがしかし、力いっぱい叫んだ虎徹の声は、バイクのエンジン音にかき消されて誰の耳にも届かなかったのだった。

-END-

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