りりぃのお部屋

□子供の楽しみ
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その日は、虎徹さんの家に一度寄ってから街へ二人でランチがてら買い物に行こうと言っていた日だった。
ランチというからには昼前には到着するつもりで家を出たが、正直、寝坊の多い虎徹さんのことだから、どうせ僕が到着してからシャワーだろうとのんびり歩いていた。
それが、呼び鈴を鳴らした途端、
「待ってたぜ!バニー!!」
勢いよくドアが開き、抱きついてくるんじゃないかという勢いで迎えられて驚いた。
「どうしたんですか?虎徹さん」
思わず訊ねてしまったのも仕方がないと思う。だが、虎徹さんは心外だと言わんばかりに唇を尖らせて、何故か気まり悪そうに視線を逸らせてしまった。
「なんだよ、いいじゃんかよ、早く来ねえかって待ってたんだよ」
何が目的でこんなに殺人的に可愛らしさを強調してくるのか、このオッサンは…
朝っぱらから(もう昼近いが)下半身に響く可愛さの虎徹さんを、玄関にも関わらず抱きしめてしまおうと手を伸ばして、もうひとつ、いつもと違っていることに気がついた。
虎徹さんの服装が…見慣れないものだった。
これは、なんといったか……確か折紙先輩が見せてくれた…
「スモー」
覚えていた単語をなんとなく発した僕に、虎徹さんがきょとんとする。
「は? スモー??」
それから僕の視線が虎徹さんの全身を舐めまわすように見ていたことんに気づいてか、自分の格好を見なおして、ああと納得して頷いた。
「相撲のことね、折紙に見せてもらったのか? まあ、お相撲さんも着てるかぁ」
よく覚えてたなと笑う虎徹さんは、なんだかちょっと嬉しそうだった。
「これは浴衣ってんだ、ユカタ、俺らの方の…民族衣装ってかんじ?」
「それは、キモノではないんですか?」
以前、虎徹さんを理解したくて、折紙先輩にジャパニーズ文化というものを教えてもらったことがある。その時に記憶したことを口に出すと虎徹さんがよく知ってるなぁと感心してくれた。
…正直いって、嬉しい。
「浴衣ってのはその着物の一種でさ、そうだな、カジュアル着ってとこか」
「はぁ」
そう言われて改めてみると、これはこう着るものなのか虎徹さんがわざとそうしているのか、胸元が結構覗けてしまう感じに開いている。
巻きスカートのように一枚の布をぐるっと巻いている作りのようで、歩くたびに締まったふくらはぎや太ももまでがチラチラ見えて、素晴らしくそそられる。さっきの態度といい、もしかして誘っているのだろうか…?
「でよ、この近所に結構デカイ神社があるんだけど」
「ジンジャ?」
部屋の中のテーブルから財布を取って持ってきた虎徹さんが、妙にうきうきとした顔で僕のところまで戻ってきた。脈絡のわからないことを言われて、慌てて思考を引き戻す。ジンジャとは、確か教会のようなものだったはずだ。
「そのー…よ、ランチって…どっか考えてた?」
虎徹さんが上目づかいで伺うようにこっちを見た。だから、襲ってほしいのだろうかこの人は。
もしかして、俺を食べてとか言い出すのだろうか。全くもって望むところだが。
「特に考えていませんでしたけど? どうしてですか?」
興奮を隠して努めて平静を保って言うと、虎徹さんの表情がぱぁっと嬉しそうに輝いた。
だけどそれは、色っぽさなどかけらもない…そう、子供のように無邪気な笑顔だ。
「虎徹さん?」
「あのよ、あのよ、お祭りやってんだ、屋台もいっぱい出てるし、行ってみねぇ?」
「オ……マツリですか?」
オマツリとは一体なんのことだろう?
未知の言葉に僕は眉を顰めていたらしい。こっちを見る虎徹さんの表情がみるみる萎んでいく。
「あ…わり、もしかしてお前、自分のカミサマと違うからそういうとこ行けねぇとか、そんなかんじ?」
「いえ、単に意味がわからないだけです」
どうやら虎徹さんは、僕が宗教違いで嫌がっていると思ったらしい。確かに子供のころからのそれとは違うが、正直言って気にしたことはない。文化の違いなのだから、わざわざ否定する気もない。
むしろ、虎徹さんがこんなに嬉しそうにしているそのマツリとやらに興味が沸いたくらいだ。
折紙先輩に見せてもらった情報にも確かマツリはあったと思うが、ちょっとしたビル程もある大きな人形とか、飾りのついた箱のようなものが大きな通りを通っているというものだったはずだ。こんなところのご近所でやっているとは到底思えない。
とすると、恐らくそれとは違うものなのだろう。
「あ、そっかー、バニーちゃん祭り知らないのか…」
あからさまにほっとした顔をすると、虎徹さんはまたキラキラと顔を輝かせた。
「んじゃさ、試しに行ってみようぜ?な?? 炒飯はねぇけど焼きそばとかあるし」
勿論、そんな楽しそうな虎徹さんに異論など唱える気はない。むしろここまで彼を魅了するマツリとやらを攻略しておくべきだ。
僕はにっこり微笑んで「楽しみです」と言うことで、同意を示した。
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