りりぃのお部屋

□おじさんのキモチ
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「バニーちゃん、おじさん考えたんだけどさ」
出動を終え、逮捕ポイントを取ったバーナビーと人質救出ポイントをとった虎徹は、会社に向かうコンテナの中で隣り合ってシャワーを浴びていた。
「おじさんくらいになっちゃうとさ、色々考えちゃうわけよ」
シャワーの流れる中、虎徹が隣のバーナビーに話しかけるが、バーナビーからの反応はない。聞こえないのかなと爪先立って隣を覗くと、翡翠の眼にジロリとみられた。
「聞いてますから、覗かないで下さい」
「聞いてんなら、うんとかすんとか言えよなぁ、それに覗いたっていいじゃんか別に」
ぶつぶつ言いながら虎徹が姿勢を戻すと、隣から溜息が聞こえた。
「それで、なんなんですか?」
「ああ、それでさぁ…だから、おじさんもオクサン天国行っちゃったとはいえ既婚者だし、かわいいかわいい子供がいるわけよ」
「ええ」
「田舎に帰れば親兄弟もいるわけよ」
「ええ」
「社会的なーとか、世間的にーとか、いろいろあったりでフットワーク重くなってくるわな」
「ええ」
「体と一緒で、ココロも傷つくとなかなかなおんねぇから、傷つきたくねぇなとかさ」
「ええ」
「それに…若者の未来をつぶしちゃいけねぇなとかさ…」
「ええ」
「…バニーちゃん、聞いてる?」
「ええ」
「……昔むかし、あるところにおじいさんとおばあさんが」
「随分話が飛びますね」
「あ、聞いてたんだ…」
あまりにも一本調子な返事に、聞いていないに違いないと思った虎徹は、意外にもまともに返事が返ってきて驚いた。
気づくと、隣のバーナビーはすでにシャワーを終えていたようで、水音がしなくなっている。
はっとして自分もシャワーの湯を止め、ブースの外を覗くと、着替えを済ませたバーナビーが出て行こうとしているところだった。
「もう着きますよおじさん、まだ仕事残ってるんですから急いで下さい」
コンテナは、既にアポロンメディア敷地内に入っていた。出動の後だが、まだ書類仕事が残っているので二人は直帰せずに斉藤のコンテナで会社に連れ帰ってもらっていた。
「おわっ」
虎徹は慌ててタオルを掴み取ると、大ざっぱに体の水気を拭いて着替えに手を伸ばした。見回せば、バーナビーの姿は既になくなっていた。
虎徹はバーナビーが出て行ったであろう扉を眺めながら、はぁと大きくため息を吐く。
「ちぇ…一大決心したってのに…」
虎徹の小さな呟きは、一人きりのシャワーブースに響いて消えた。





「んっあっ、それやっ…」
その夜、遅くまでかかって書類を仕上げた二人は、ゴールドステージのバーナビーの部屋に来ていた。
遅い時間になったのだから泊っていけと、半ば強引なバーナビーによってそうなった。
残業をしながら会社で軽食を取ったから空腹ではなかったが、一杯飲んでから眠りたいと思っていた虎徹だったのに、部屋へ着くなりバーナビーに乱暴に床に押さえつけられて淡い希望を捨てざるを得なかった。
なんとか訴えて床でコトに至るのは回避し、ベッドへ連れて来られたが、その後はもう無言の激しい行為のみ。
いつもならば、甘い囁きと本当にその若さかと問いたくなるほどのねちっこい行為なのだが、その日はとにかく激しく求められた。

虎徹は体の中に二度目の熱い迸りを受け止めた時、ベッドにうつ伏せに押さえつけられて腰だけを高く抱え上げられた状態だった。
バーナビーは、虎徹の中へ熱を吐き出してもなお、ぐちぐちと虎徹を揺さぶって中をかき回していた。
「なっ…もう…」
立て続けの激しい行為。
しかも自分勝手に動くかと思いきや、虎徹の中の最も敏感な部分を集中的に突かれ、虎徹は頭がおかしくなりそうになっていた。
息も絶え絶えに、なんとか振り向こうとした時、まだ穿たれたまま中をかきまわしていたバーナビーの熱が、三度蘇ってくるのを感じる。
「ちょったんまっ」
虎徹が慌てて背後に声をかけるが、バーナビーは構わずゆっくりと虎徹の中を刺激し始めた。
「あっ…」
動きだされては虎徹はもう、翻弄されるしかない。
虎徹は、体の中にバーナビーの熱を感じながら、何か寂しい思いを感じていた。


そもそも、虎徹はこの体勢が嫌いだというのもある。
深く繋がれるのはいいが、バーナビーの顔が見えない。その背に腕をまわして縋りつきたくてもできない。口づけられながら突かれるのがたまらなく好きなのに、口づけができない。
せめて、背中にぴったりと張り付いてくれればいいのに、今日はそれすらしてくれない。
何かわからないが、酷く怒っているような気がする。
虎徹はその原因を問うこともできずに、とにかくバーナビーの中の嵐が過ぎ去ってくれることを待つしかなかった。
バーナビーの優しい匂いのする枕に、ぎゅうっと縋りつきながら。



三度目の熱を放つと、ようやくバーナビーは虎徹から一旦己を引き抜いた。
引き抜かれた瞬間、ぬぷりといやらしい音がして、バーナビーがいなくなったそこからドロリと熱いものが垂れたのを虎徹は感じた。
敏感なところを弄られ続けて、全身がまだ粟立っているところには、それすらも甘い刺激となって虎徹を襲う。
「ん…はぁ…」
震えながら脱力すると、あお向けられた虎徹はバーナビーにすっぽりと抱きしめられていた。
首筋に、吐息を感じる。
「ばに…?」
気が済んだのかと問いたかったが、そんなことを言って足りない等と言われては困るしと、虎徹はただその背にそっと腕をまわす。

抱きしめることのできる温もりが気持ちいい。
一方的にされた行為でも、虎徹は怒る気にはなれなかった。
怒っている理由を聞いた方がいいだろうなと思ったが、疲労でなかなか一言が言いだせない。
このまま眠ってしまおうかと思っていると、首筋からもそもそとむくれたような声がした。
「話の続き……」
「んぁ?」
不貞腐れたような声が、不明瞭に聞こえてきた。
「今日の昼間、シャワールームで言いかけてたこと」
言われて、霞がかった頭で巻き戻し、虎徹はああと思いだした。そういえば言おうと思っていたことがあった。
「あーあれね…別にいんだけどよ…」
もともと、軽いタッチで冗談のようにしゃべって終わりにしてしまおうと思っていたことだ。こんな不機嫌なバーナビーには言いにくいなと思っていると、首筋をかぷりと甘噛みされた。
「いてぇよ」
「…気になりますから、話して下さい」
あいかわらず、むっつりとした声音。
言いにくいが、ここで言わなければかえって機嫌が悪くなりそうかと、虎徹はふぅと息を吐いた。
「ええと…どこまで喋ったかな」
「おじさんは、背負う者があって世間体を気にして身動きが取れなくって、傷つきやすいってとこまでです」
「ああそう……意外とちゃんと聞いてたのね…」
呟いて、虎徹はバーナビーの細い髪の毛を指に絡めた。
「うーんとよ……うーん…」
いざ、改まって喋ろと言われると言いにくいものだなと考えていると、バーナビーがほんの少し顔を上げた。
翡翠の瞳だけが、じっと虎徹を見据えている。
「結論だけでもいいですよ」
それだけ言うと、再び首筋に顔を埋めてきた、翡翠の瞳は見えなくなる。
結論ってなんだ? と思いながら、虎徹は言おうと思っていたことを頭の中で反芻した。
「結論…結論ねぇ……ああーつまり最終的に言いたかったことはだ」
こほんとひとつ咳払いをすると、虎徹はバーナビーが顔を起こせないように頭を押さえつけた。
首筋に、熱い息がかかる。
「もし、この先お前が俺と別れたいっつってもよ、俺はそう簡単にお前を諦められねぇと思うから、修羅場の覚悟しとけよって…こと?」
「………は?」
数秒の間をおいて、押さえつけられていたのをものともせずに、バーナビーががばりと身を起こした。
「え?なんですかそれ?」
その両目から本当に翡翠が落ちてきてしまうのではないかというほど、バーナビーが目を見開いて虎徹を凝視した。
「え、いやだからよ……おじさん年とって、いろいろ考えちゃったわけよ、自分の守るものとか、この年で捨てられて傷つきたくないなーとか、お前のこの先を考えてもさっさとおじさん身を引かなきゃなとか…」
もそもそと言うと、バーナビーの眉間が途端に険しくなる。
「でっでもな、良く考えたらさ、おじさん老い先短いわけよ」
「何言ってるんですか、都合のいい時だけ年寄りぶらないでくださいよ」
再びむっつりと不機嫌になったバーナビーが、眉根を寄せた。
「や、でも実際バニーちゃんよか一回りも年上だしさ…そんで思ったわけよ、先が短いんなら俺の方が好きにするべきだよなーって」
「………よく意味が…」
眉間に皺を寄せたまま、バーナビーが訳がわからないと首をかしげる。
「だからさ、先が短いんだから、みっともなかろうが好きなら好きってしがみついた方がいんじゃねぇかって」
「…え……それって…」
突然、ぼふりとバーナビーが虎徹の上に落ちてきた。
「おもっバニー、重てぇぞ」
「……よかっ…」
「え?」
「よかった…」
再び首筋に埋められたところから、今度は湿った声が聞こえてきた。
「バニー?」
あやすように細い金髪を撫でると、ぎゅっと痛いほど抱きしめられる。
「別れ話かと思いました」
「えっ?!だから、俺にその気はないって今言ったばっかだぞ?もう修羅場してぇのか??」
焦った虎徹が、自分にかぶさる男をゆさゆさと揺さぶると、はあと大きな吐息が聞こえた。呆れたような溜息と違って、何か安心したような。
「だって、あの内容じゃあどう考えたって別れを切り出されるんだって…」
「え…そんな内容だったっけ?」
虎徹にしてみれば、簡単に別れてなんかやらないぞという重い宣言をするつもりだったから、過程の話がどう受け止められるかなど気にも留めていなかった。
「そんな内容でしたよ」
虎徹の上で、バーナビーの体がもそりと動く。首筋に、熱い湿った舌を感じた。
「だから…僕、覚悟してたのに」
「え、覚悟しちゃったの? バニーちゃん意外とあっさり別れるつもりだったんだ」
意識したわけではないが力ない声になってしまい、虎徹は少し情けない気分になった。やはりこんな風に考えていたのは自分だけだったのか。重いって思われちゃったよなー…と思っていると、首筋に吸いついていたバーナビーがゆっくりと顔をあげた。
「冗談でしょ」
「え…」
上げられた顔、虎徹を見つめる瞳は、獲物を捕える獣のようだった。
「あなたが別れるなんて言ったら、この部屋に監禁するつもりでしたよ…それを今日実行しなければいけないのかって、ちょっと残念に思っていただけです」
「……」
言われた言葉がすんなりと飲み込めなくて、虎徹はぱちぱちと何度も瞬きをした。
「あなたを閉じ込めて、誰にも見せないでどこにも行かせない…すごく魅力的でしょう? でも反面、あなたが外で活躍しているところや溌剌とした姿や、色々なところで見る可愛いあなたが見られなくなるんだなと思うととても残念で……少し迷っていました」
「…そう、か」
「僕が…怖くなりましたか?」
虎徹の呆けた返事に、バーナビーが自嘲気味に微笑んだ。
「え? ああ、いや…もしかしてそれで今日怒ってた?」
「…まあ…そうですね、怒るというかなんというか…」
決まり悪そうにバーナビーが虎徹を見つめる。
翡翠の瞳に見つめられ、虎徹はふいにかっと頬を染めると、視線を逸らした。バーナビーの髪をくるくると指に巻きつけながら、ぷくりと口を尖らせる。
「なんか…すげぇ両想いじゃん俺達って……つか、ちょっとゾクっときた」
「怖くて?」
そむけられた視線を無理に追おうとせず、バーナビーが虎徹の頬に唇を滑らせる。
「そうじゃなくって………た」
「え?」
間近に顔があったのに虎徹の声が聞こえずに、バーナビーがさらに顔を寄せると、虎徹が顔を真っ赤にしてバーナビーの顔を押し返した。
「じゃなくて! 感じたのっ、ゾクゾクしちゃったのっ、また挿れて欲しいって思ったのっ、悪りぃかっ!」
ぐいぐいとバーナビーの顔を押しのけようとする虎徹の手を掴んだバーナビーが、一瞬動きを止める。

「…虎徹さん」
それから、ぱあっと花が咲くように笑った。
それがあまりにも幸せそうで、虎徹は押しのけようとしていたバーナビーの頭を、思わず引き寄せて抱きしめていた。
暖かい吐息が胸にかかる。
柔らかな髪の毛が気持ち良かった。
「ね、虎徹さん?」
「…ん?」
甘えたような声に、虎徹が優しく応える。
「…もう一回、していいですか?」
言われた言葉に、バーナビーを腕に抱いたままきょとんとした虎徹は、次の瞬間くっくっと笑いだしていた。
「虎徹さん、笑いごとじゃないですよ、虎徹さんだってソノ気になっちゃったんでしょう?」
むぅっとしたバーナビーが顔をあげるが、気まり悪そうな表情で迫力もない。その上漲った下半身をくいくいと押し付けられて、虎徹はなおさら笑いを深くした。
「バニー、おじさんさぁ密着できる体位のほうが好きだなぁ…あと、バニーの顔見ていたい」
「おや奇遇ですねおじさん、僕もおじさんのイク時の顔が見ていたいなと思っていたんですよ」
虎徹の胸の上、さっきまでの態度はどこへやら、妖艶に笑う男がいた。
強烈な色気を発散しながら、バーナビーは笑った形の口で虎徹の顔に近づき、髭ごと顎をぱくりと食む。
「あとさ」
くすぐったそうに首を竦めた虎徹が、愛おしそうに目の前の金髪を撫でた。
「明日も仕事だから、立てる程度にセーブしてね?」
可愛らしく首を傾げて虎徹が言うと、バーナビーが呆れたように大げさに溜息を吐く。
「まったく…わがままなおじさんですね」
そうして、いたずらっ子のように微笑む唇に、そっと口づけを落とした。


-END-

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