ありすのお部屋

□ヴェルサイユの夜は熱く燃えて
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◆◇◆◆◇◆◆◇◆序章◆◇◆◆◇◆◆◇◆



深紅に咲き染める、薔薇の花。
燃え盛る炎のように、情熱的に。
地上を全て照らしだす太陽の光のように、煌びやかに。
そして白き指先を銀の針で突き、そこから流された乙女の赤き血のように、扇情的に。
薔薇の花が、咲く───。
美しき、薔薇の花。
気高き、薔薇の花。
甘美な香りをくゆらせて、咲き誇る。
聖なる花びらを持つ、淫靡な花。
優雅に咲けば咲く程に、酷く淫らで。
妖しげに風に揺れる姿は、まるで神に祈りを捧げ、頭を垂れる乙女の姿にも見える。
魔の力を持つ、清らかな花。
何にも染まらず、咲き続ける美しき大輪の薔薇。
けれど、薔薇の花は知らない。
その美しき花びらも、甘やかな香りも、やがては、風に散っていくものなのだと───。



◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆◇◇



───時は、十八世紀。



永きに渡りヨーロッパの覇権を巡って、幾多にも渡る争いを続けていたフランスのブルボン家と、そしてオーストリアのハプスブルグ家は、互いに疲弊しきっていた。
争いは膿んだ感情を生み、民の心を無為に乾かせる。
土地は荒れ、国は憂う。
そうして、人々は願うのだ。
───争いのない、日々を。
平和を、と。
恒久的な平和等、歴史上に存在したことなどない。
だが、一時的な平和ならば、人々は築くことができる。
ほんの小さな子供が、やがては、親へと成長する時間。
そしてその子供が、再び子供を育ててゆく。
それ位の時間で、いいのだ。
人々は争いのない日々を、心から強く願っていた。
───平和を、と。
永き確執のある、理念も概念も違う国同志が、互いに利害の一致をみなす場合、それは通例に於いて、対外的に排除せねばならぬ共通のものが存在する。
イギリス、ロシア、そして、強国な王国になりつつある、マルク・ブランデンブルグ。
民族も宗教も違う悪しきもの達に、祖先達が遥か昔より、全身をかけて守り通してきたこの地を、好きにさせてはならない。
悪しきもの達から身を守る為にも、両国は強く結びつく必要があった。
そう互いに気付いた二つの王家は、血の盟約を交わすこととなる。
恒久的な、平和の為に。
そして、二つの王家に繋がる、懸け橋的な統治者の誕生の為に。
フランスと、オーストリアと。
古き血のブルボン王家と、そして歴史あるハプスブルグ王家と。
この両家の結びつきは、強大な両国の結びつきを意味し、この両家の血を受け継ぐ者は、すなわち二つの国を統べる者を意味した。
永き仇敵同志であったこの二つの王家は、血の交わりを望んだ。
一時的ではない、恒久的な平和の為に。
そしてそれにより、二つの王家がますます栄えるように。
ブルボン家とハプスブルグ家は、いまや永劫に渡り、かつての仇敵関係から婚姻関係に相なることとなった。
それぞれの王家の血を持った者達との、交わりによって。
すなわち。
ブルボン王家の正統なる血を受け継ぐ、キース・ルイ・グッドマンと。
ハプスブルグ家の正統なる血を受け継ぐ、虎徹・T・アントワネットと。
この両名の婚姻により、永き間憎みあっていた二つの王家は、今、結ばれたのであった。



そして、運命の女神モイラの糸車は、ゆっくりと回り始める───。
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