ありすのお部屋

□にゃんにゃんにゃん
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カリカリカリ、と。
俺は、バニーの足元を爪で引っかいた。
だけど見上げてみても、バニーは、カタカタカタとキーボードを叩くだけだ。
「なあ、バニーちゃん、俺、つまんねえんだけど」
足首のあたりに額をくっつけて、ついでに軽く足首のあたりも噛んでみる。
「……っ」
軽く、バニーが呻いた。
これで、どうだ。
今度ばかりはバニーも俺のことを見てくれるだろうと見上げると、バニーが軽く溜息をついて、困ったように眉をしかめた。
「……もうちょっと、ですから。あと一時間くらい、我慢してください。僕はどうしても、今晩までにこれを片付けないといけないんですから」
苦笑とともに、バニーが俺の喉の下あたりを軽く撫でて、そしてまた、モニターへと視線を向ける。
「んだよ、それ」
不満の唸り声をあげても、今度はモニターから目を離すこともなく、バニーはひっきりなしに指をキーボードへ滑らせている。
「なあ、バニー……バニーったら、バニーちゃん!」
一生懸命抗議の声をあげたところで、バニーにとっては、にゃーん、にゃーんと猫が鳴いてるだけにしか聞こえないんだろう。
そうなんだ。
俺は、バニーの飼い猫で。
俺がどんなに鳴いて抗議しても、バニーはちっともわかってくれない。
カリカリカリ。
もう一度ひっかいてみても、足首をガジガジかじってみても、バニーはちょっと苦笑するだけで。
カタカタカタ。
乾いたキーボードから音がするだけだ。
あーそーかよ。
そういうこと、するのかよ。
「バニーっ!バカバニーっ!バカバカバニーっ!」
俺は最後に一声、にゃーんと大きく鳴いてみる。
一瞬、キーボードから音が止まる。
「もうちょっと、ですから……」
しかし、バニーはもう一度軽く俺の顎を撫でただけで。
また、キーボードへ指を滑らせる。
「バニー……バニーちゃん、なあっ!」
バニーを恨めしげに見上げても、バニーはちっとも俺を見てくれない。
ああ、そうかよ。
もう、知らねえっ!
バニーの足元から離れて、お気に入りのベッドへと向かったが。
カタカタカタ。
鳴り続けるキーボードの音に、俺はくるりと踵を返す。
そして。
「うわ……、虎徹さん、もうちょっと、ですから……」
俺はバニーの膝の上に軽く飛び乗り、さらにキーボードの上に飛び乗った。
ふん。
知るもんか。
バニーなんて、知るもんか。
キーボードの上に、ゴロリと横になる。
「はぁ……やっぱり……そうきましたか……」
チラリ、と見上げると、バニーが軽く溜息をついていた。
「仕方ありませんね……ああ……入力しづらいな……虎徹さん、ちょっとだけ、体ずらしますよ……」
バニーは俺の体をキーボードの上から少しずらして、やりづらそうに再びキーボードに指を滑らせた。
ふん。
知らねえよっ!
ふんと鼻を鳴らしてから、バニーの手首の上に、顎をちょこんと乗せた。
この体勢が気持ちよくて、俺はすぐにウトウトと眠くなってきた。
「……まったく、体は大きくても、まだまだ甘えん坊ですね、虎徹さんは……」
軽くバニーが、笑って。
そして、またカタカタカタとキーボードから音がする。
「大好きですよ、虎徹さん」
バニーが俺の背中を何度か撫でて、額をちょんちょんとつついた。
ばーか。
そんなの、知ってるって。
お前は、俺のことだけ見てればいいんだよ。
くう、と。
大きな、あくびをして。
バニーに撫でてもらうのが気持ちよくて、俺はうとうとと目を瞑る。
静かに聞こえてくる、キーボードの音が気持ちいい。
大好きなバニーに撫でられながら、俺はやがて眠りについた。



大好きだよ、バニーちゃん。

-END-

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