ありすのお部屋

□侵入社員バーナビー
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 僕の名前は、バーナビー・ブルックス・Jr。
 僕の使命は世界征服を狙う、悪の秘密組織ウロボロスの指令のもと、様々な企業に侵入し、ダメージを与え、世界経済を大混乱させることだ。
今日も新入社員として、この『アポロンメディア』に、ヒーローとして侵入することにした。



「バーナビー君、だね。ヒーロー統括部のロイズだ、宜しく。今うちの会社は、非常にデリケートな時期でね。是非とも君の活躍で、イメージアップをして、来期の収益を上げたいんだよ」

 ヒーロー事業部統括だという、ロイズという男は、すっかり僕をアポロンメディアの救世主として迎えいれているようだった。
 ふ。
 僕の手腕にかかれば、たかが一企業を破滅へと追い込むことなど、造作もないこと。
 今回の指令は、ヒーローとして破壊活動を行い、イメージをダウンし、アポロンメディアに破滅をもたらすことだ。
この企業に個人的な恨みなどはないが、これも僕の任務。
同情や憐れみの心など、いらない。

「それじゃあ、紹介しよう。君と一緒にバディとして組んでもらう、ワイルドタイガー、鏑木・T・虎徹君だよ」
「よろしくな、相棒っ」

 ───ガビビビーン。

 僕の背中に、衝撃のプラズマが走り抜ける。
 なんだ、この可愛らしい生き物は。
 ワイルドタイガーとして紹介された男は、まるで太陽に向かって咲く、眩しい向日葵のような笑顔を僕に向けていた。

「俺、相棒って始めてだからよぉ、なんか、照れんな」

 にこっ、と。
 100万ボルトの笑顔を、向ける。
 
「俺、よくビルとか破壊して、賠償金すごくてさー。働けば働くほど、賠償金が大きくなっちゃうんだよなぁ。娘も一人いるし、ここでがんばって挽回するぞぉ。頼むぜ、バニーちゃん」

 すっかり信頼しきった、まるで澄んだ空のような瞳を輝かせ、虎徹さんは僕に眩しい笑顔を向ける。
そんな虎徹さんの笑顔を見ていると、僕の渇いた心に、小さな花が咲きそうだった。 
─────だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、バーナビー・ブルックス・Jr!僕には、冷酷な任務が待っているだろう?
こんなことに心を動かされている場合じゃない!

「バニーちゃんが、色々活躍してくれるから、俺も最近、色々うまくいって、本当、感謝してんだ。ありがとな……」

 くりっとした大きな瞳で、虎徹さんは僕を見つめる。
 だ……だめだ、だめだっ!
……僕は……僕は……任務を……っ!


 ─────そして、半年後。


「何、ビル破壊しそうになってるんですか、おじさんっ!だめですよ、また賠償金がかさんでも知りませんよ?」
「だってよぉ、犯人、逃げるからしかたなく……」
「だっても、あさってもありません。次からは気をつけてくださいよ。僕のフォローがなかったら、今頃どうなっていたか……」
「バニーちゃんがいてくれて、本当に助かってるよ。ありがとな、バニー」

虎徹さんは、信頼しきった視線を僕にむけた。
僕は今、ヒーロー界のキングとして活躍中だ。
 その効果をうけ、アポロンメディアの株価は急上昇中で、とどまることを知らない。
 当たり前だ。
 虎徹さんと生涯安泰に暮らしていくには、貯蓄はいくらあってもいい。
 そのためには、アポロンメディアの経営が傾いてもらっては困る。
 先日は、アポロンメディアの財形貯蓄口座も開き、生命保険の契約もした。
 僕の生涯設計に、間違いはない。
 虎徹さん、僕と一緒に、楽しい老後を過ごしましょうね。
 一つ残る問題は、僕が所属していたウロボロスの存在だが、蛇の道は蛇。
 所詮、組織をよく知る、僕の敵ではない。

 さあ、今晩は定時であがり、虎徹さんを飲みに誘おう。
 もちろん、その後は、僕の部屋へ呼ぶつもりだ。
 僕の未来は、まばゆいばかりに輝いている。
 それもすべて、虎徹さんがいるからだ。
 二人の明るく楽しい未来のためにも、働かなければ。
 
 いきますよ、おじさん。

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