ありすのお部屋

□そして、伝説へ……
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アントニオと酒場で飲みすぎて、すっかりぐだぐだに酔いつぶれたその日の夜、俺が知らない間に世界はひっくり返るほど、大事件があったらしい───。



「虎徹……ちょっと、虎徹っ!いい加減に起きなっ!やだねぇ、この子ったら、ほんと酔っ払いで……」

俺を揺さぶる母ちゃんの声で、俺はガンガンに痛む頭を抱えながら目覚めた。
部屋の中は明るく、窓の外からはすっかり高い位置にある太陽で、もう昼過ぎだなってわかる。

「だッ!……っいててて……勘弁してよ、母ちゃん。昨日、すっかり飲みすぎて、頭いってぇ……」
「何呑気なこといってんだよ、お前は。早く起きとくれよ、大変なんだよ」
「いててて……わかった、わかったよ、起きるからっ」

ようやくのっそりと体を起こして、俺は再び襲ってくる頭痛に頭を抱えると、母ちゃんは深く溜息をついた。

「まったく、いい年をして、飲みすぎだなんて、あんたって子はほんとに……。ちょっと、虎徹、あんたね、ちょっとひとっぱしりしてきて、バラモスって魔王、退治してきておくれ」
「はあ?」

なんだかちょっと近所までお使いを頼まれたような、母ちゃんの口調だったが、言っている内容がさっぱりよくわからない。

「何いってんの、母ちゃん」
「何いってんのじゃないよ、あんたが昨日酔いつぶれた夜にね、なんだか世界のどこかで魔王がでただかでねえ。それで今朝、王様がね、うちの楓が勇者だから、その魔王を退治してきてくれとか言うのよ」
「はあああ?」

ますます、言っている内容がわからない。

「お婆ちゃん、お父さん、起きた?」
「まったく、こんな時に酔い潰れて朝寝坊だなんて、つくづく呑気な奴だ」

楓と兄貴が、二人そろって俺の部屋にはいってきた。

「あら、楓。今ね、お父さんに言って、代わりにいってきてもらうことにしたからね」
「代わりにって、だから母ちゃん、話、見えないってっ!」

俺が慌てて反論すると、楓が寝ている俺の足元にすがりついてきた。

「お父さんっ!私、勇者って言われたの。どうしたらいいの?だって、私、何にも力なんてないよっ」
「楓、安心をし。お父さんが、楓の代わりに魔王を退治してくれるからね」
「お婆ちゃんっ!」

楓は俺の足元をさっと離れて、母ちゃんにぎゅっと抱きついた。

「だから、その魔王って何だよ。楓が勇者とか、さっぱり訳わかんねぇって……」
「虎徹」

兄貴がやたら真面目な顔で、俺を見つめた。

「いいか、よく聞け虎徹。とにかく、世界は一夜にして変わってしまったようだ。誰も何もわからない。ただ、唯一わかっているのは、魔王を倒さないことには、平和は戻らないということだけだ」

兄貴はやたら重い口調で、とつとつと語る。

「ただ、いくら楓が勇者と言われても、まだ10歳の少女を危険な外の世界に出すなんて、とんでもないことだ。娘が勇者なら、父親だって、勇者の父ということで、なんとかなるだろう」
「なんとかって……でも、どうやって……」
「とにかく、町に出て、情報を集めろ。そして、酒場にいって、旅の同行者を選び、そして旅立つんだ。時間はない、さっさと支度しろ」
「時間がないって……もう、今から?」

なんてこった。
俺が酔っ払っている間、世界は本当に急変したらしい。

「その……断れねぇの?王様に……」

俺の言葉に、兄貴は重々しく首をふった。

「バカを言うな。代々伝わってきた王家御用達の鏑木酒店の面目をつぶすつもりか?王家に逆らったら、即首切りだ」
「兄貴は、俺と店、どっちが大切なんだよっ!」
「愚問だな、虎徹。店に決まっている」
「だっ!……くっそぉ……」

あっさりと答える兄貴に、何も言えず俺が唸っていると。

「お父さん……ごめんね……こんなこと頼んで、ごめんね……私……」

楓が俺を見上げて、涙を浮かべていた。
ああ。
そうだよな。
魔王とか、店とか、王家とかそんなものは、どうでもいいんだ。
楓が元気で、笑顔でいれば、それでいい。
俺は楓の頭を、ゆっくりと撫でた。

「心配すんなって、楓。お父さん、魔王だろうがなんだろうが、すぐに倒して、戻ってくるよ」
「お父さん……気をつけて……気をつけてねっ!」

楓が腰に抱きついて、泣いている。
ああ、こうやって甘えてくるのも、久しぶりだなあ。

「まかせとけって!魔王なんざ、こう、ちょちょいのちょいで、倒してくるってっ!あっはははははは」



こうして俺は、まったく右も左もわからないまま、魔王を倒しに、旅にでることになった。
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