ありすのお部屋

□オシエテ、センパイ
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「へぇ、ここがお前の寝室なんだ……」

書斎からつながっているバーナビーの寝室には、一人で寝るにしては、かなり広いキングズタイプのベッドが置かれていた。

「……ほら、来いよ、バーナビー」

バーナビーのベッドに腰かけて、俺は指先でなんとなく不安そうな顔をしているバーナビーを呼んだ。
バーナビーはゆっくりと側に近付き、そして俺の隣に腰掛けた。
キシリと、ベッドのスプリングが秘めやかに音をたててきしむ。

「そんじゃ、始めるとしますか」

少し緊張しているように、頬をぴりりとさせているバーナビーに、俺は笑ってみせる。
今日のバニーは、本当に年相応な感じで、可愛くて仕方がない。
普段よりも、優位な立場ってことにも、ちょっと気をよくしちまうな。

「……いいか?まず女ってのは、ムードが一番だからな?どんなに我慢できなくても、がっついたりすんなよ。それが大切だからな。優しく、甘く……。これが、一番の条件だ。わかるな?」

バーナビーは少しだけ、こくりと頷く。
その素直な様子に、俺はますます気分が良くなってしまう。

「よーしよし、素直で非常によろしいよ、バーナビー君。んじゃぁ、さっそく、俺をその人だと思って、優しく告白してみろよ。……いいか?耳元に甘く囁くようにして『僕は、あなたが好きです……』って、ゆーっくり言うんだぞ?ゆっくり、はっきりと。いいか、ここが一番大切だからな。……わかったか?」

「……」

バーナビーは瞳を細め、もう一度こくりと頷く。

「相手を俺だとは思わずに、相手の女性だって思えよ。……よし、やってみろ」

俺の言葉に、バーナビーはゆっくりと俺に近付いてそっと腰に手を回してきた。
そこまでやれとは、誰も言ってないはずだけど……まあ、いっか。
バーナビーの体温を間近に感じながら、俺はそっと目を瞑る。
その方が、バーナビーもやりやすいだろう。
バーナビーの右腕が、俺の腰のあたりを抱き締めて、そして柔らかに髪を撫で始める。
壊れものを扱うような繊細な感じが、酷く切ない。
なんだよ、一発でばっちりじゃねぇか。
飲み込みの早さに舌を打ちながらも、俺は目を瞑ってバーナビーの好きにさせていた。
バーナビーの指が、俺の髪をゆっくりと撫でてゆき、やがて耳朶にバーナビーの熱い吐息を感じる。

「……あなただけを、見ていました。……触れたら嫌われそうで、恐くて、ずっと、触れられなかった。だけどもう……、僕は、我慢しない……」

そうしてバーナビーの口唇が、そっと耳朶に触れてきた。

「好きです。あなたが……好きだ……」

「……っ」

ぞくん。

俺を抱き締めるようにして、そうして切なげに囁いてくるバーナビーは、まるで俺自身が告白されているような錯覚さえ起こしてしまう程、真剣な口調と熱い口唇で触れてくる。
なんだか体が変な風に震えてしまい、俺は慌ててバーナビーの肩に手をかけて、バーナビーを無理遣り押しのけた。

「……ご、合格だぜ、バニー。なんだよ、ちゃんとできてるじゃねぇか。じゃあ、これで終わりってことで……っていてっ、痛いって、バニーっ!」

いきなりバーナビーが、俺の両手首をすごい力でつかんでくる。
俺を見つめるバーナビーの顔は、まるで怒っているような表情だ。

……な……なんだよ。

何を怒っているんだ?
 
「バニー、痛いって」

「……まだ、です」
「はぁ?」
「これだけでは、まだどうしたらいいのか、わかりません。これから僕は、どうしたらいいですか……?」
「……どうしたらって、そりゃーお前……」

ここまでしたら、なあ、もうわかってもいいだろ?
その、キスをだなぁ……。
だけどそれを、バーナビーに言うのはためらわれて、俺が言いよどんでいると、バーナビーはゆっくりと耳元に口唇を寄せてきた。

「虎徹さんが、全部、教えてくれるんですよね?これから、僕はどうすればいいですか?……教えてください、先輩……」
「……っ!……わかった……って……そんなとこで話さなくっても、聞こえるから……」

バーナビーの熱い吐息が耳朶にかかって、くすぐったいような焦れったいような、妙な気分になっちまう。
バーナビーの声って、腰のあたりにくるんだよな。
参った。
って、俺が感じて、どうすんだよっ。
バーナビーは先程の続きを演じるように、俺のことをぎゅっと抱きしめてきて、髪の毛を撫で、耳朶に口唇を寄せてくる。

「……ん……ふ……」

な……んだろ、この雰囲気。
俺はようやく、この場になんとなく流れている、妖しい雰囲気に気が付いた。
息苦しい程の空気に取り囲まれて、呼吸すら出来なくなっちまうような。
ちょっとした刺激にも、肌がぴりぴりと敏感に反応しちまう。

「先輩……これから先、どうすればいいですか……?」

教えてください。

「……っ!」

また、バーナビーの口唇が耳朶をかすめていったので、俺は小さくみじろぎをしてしまった。
体からじんわりと沸き上がってくる、熱いものを感じていた。
な、なんなんだ、俺の体まで熱くなってきちまった。
バーナビーが鼻をこすり合わせるようにして、見つめてくる。
すごい綺麗で整った顔が目の前にあって、体の中からじんとしたものが湧き上がる。
俺、もしかして、この兎に、欲情してる、とか。

な、ないっ!
そんなわけ、ないだろっ。
落ち着け、虎徹、こいつは男で、相棒で、しかも年下だぞ?

「……虎徹さん」
「バ、ニー……」

バーナビーの吐息が、口唇を掠めてゆく。
長い睫毛が伏せられるのが、みえて。
滑らかな白い肌と、そして綺麗な形の口唇。
俺の心臓が、一つ鳴った。
これは、シュミレーションなんだ。
バーナビーに、恋人ができるための、いわばボランティアってやつなんだ。
そう、これはボランティアだ、ボランティア。
俺は、息を飲み込んで。
目の前にあるバーナビーの顎に、そっと指をかけた。
そしてそれに、口唇を近付けて。

「好きだって言った後は、こうして優しくキスをしてやればいいんだよ……」

俺は、バーナビーへと口唇を寄せていった。

冷んやりとした薄いバーナビーの口唇に、そろりと舌を這わせると、それがゆっくりと開いていく。

「もう少し……口開いて……」

教えるように低くそう言うと、バーナビーは大人しく口唇を開いた。
そこに舌を忍ばせて、湿った音をたてバーナビーの舌と絡める。

「……虎徹、さん……」

かすれた、バーナビーの声。
俺の頭の中も、何度も何度もキスをしていくうちに、ぼんやりとしてきてしまう。

「……バニー」

甘くに名前を呼んでやって、深く根元まで舌を絡ませると、ぞくぞくしたものが背筋を走り抜ける。
バーナビーの舌が、やがて吸い付くように俺のと絡まってきて、そして、離れては口唇をなぞり、そして離れてはまた舌に絡んでいく。
そのたびに、濡れた音が頭の中に響いてきて、俺はバーナビーの背中をぎゅっと掴んでしまう。

「……虎徹さん……」

名前を呼ばれて、ぞくりとする。
バーナビーの熱い舌が、ゆっくりと俺の先の方に触れたかと思うと、またきつく絡んできて、そして裏側を緩やかに舐められて。

「……ぁん」

……や……べ……。
な……んか、もしかして、バーナビーの野郎、むちゃくちゃキスがうまくないか?
リードしていたつもりが、いつの間にかバーナビーのキスのペースにのせられて、俺はバーナビーの舌が口の中を動く度に、細やかに体を震わせていた。
合わせる度に、口唇の端からつぅと飲みきれずに零れていく雫を追うかのように、バーナビーが首筋のラインを辿ってゆく。

「……ひゃ……や、め……」

声が、出ちまう。
ひっきりなしに漏れてしまう声を押さえようとして口唇を噛み締めると、それを解くようにバーナビーの舌が柔らかくなぞっていって。
たまらずに口唇を開けると、また、バーナビーの舌が入ってきて、そして俺の舌を甘噛みされ、そして吸い上げられて、ゆっくりと口の中を舐められる。

「……ぁ……っ」

だ……めだ、くらくらしてきた。
終わらない長いキスに、俺はぼォ……としながら、空気を求めて口唇を開くと、バーナビーはそれを奪うように合わせてきて。

「虎徹さん……どんな感じです……?」
「……ぁ……ん……」

耳元に甘えるようなバーナビーの声が聞こえ、そして、ちくりと刺す痛みが走る。
熱い舌が、耳朶の後ろを上下して、ツッ……と舐め上げてゆく。

「……や……め……、バーナビー……ッ!」

ほんのちょっと吐息がかかっただけでピクっと肩が動いちまうのに、そんな風にされたら。
俺は懸命にバーナビーを引き剥がそうとするが、バーナビーは楽しそうに口唇をほころばせて、耳朶のとこを甘噛みしてくる。

「……ぁ……やぁ……ぁ」

ゾクゾクと、疼くようなものが駆け抜けて、俺はぎゅっと目を閉じてしまう。
それなのにバーナビーは、耳のとこに口唇を押しつけてきて、熱く濡れたような吐息を中にひっきりなしに吹き込んでくる。

「……ん……ぁ……ふ……ぁ……」

濡れた長い舌が、耳のラインをなぞり、中に、奥に、そして、俺がもっともゾクゾクしちまう裏側からうなじのとこを、ねっとりと舐め上げた。

「……バニー、や……め……」
「虎徹さん……どんな感じになっているか、教えてくれないと、わからないですよ……」
「どういう……感じ……って……」

荒くなる呼吸を整えようと、俺は大きく息を吸い込む。
でもそうすると、バーナビーはもっともっと、淫らなくらいの動きで、俺の耳朶を舐めてゆくから、呼吸がちっともおさまらない。

「……ぁ……」

ちくり。
また、首のとこにバーナビーの口唇が吸い付いて、痛みが走ってゆく。

「ば……かっ!」

こ……こいつは!
な……生意気にも、キ……キスマークをつけやがってぇ!
だけどバーナビーのヤツを怒鳴りつけようとすると、また、バーナビーは俺の弱いとこばっかり舐め上げてきて。
俺の口から漏れるのは、恥ずかしい甘ったるい声だけだ。

「……や……バーナビー…だめだ……」

肩を押しのけようとすると、バーナビーは逆にぐいと俺の肩をつかんで、全身で乗りかかってきて、俺の体はすっかりベッドの中へと埋められてしまう。
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