短編

□俺が貴様でボクが君!?
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後に残されていたのは、狭い廊下に仲良く寝そべる二人の姿でした。

よく見ると、星とひよこが二人の頭上で追いかけっこをしています。

ぴよぴよぴよぴよ。

遊戯だけならまだしも、何故海馬が倒れるんだ、と不思議に思われる方も居られることでしょう。

べちゃり、と情けなく床にコンニチハする筈だった遊戯の身体は、先に壁へと激しい挨拶を交わすこととなったのです。

ごくごく普通の廊下のド真ん中から倒れたワケですが、この学校は無駄に間取りを広くなど造ってはいません。

壁に対し、垂直に倒れた遊戯の頭は鈍い音を立てて壁に側面頭突きを喰らわせてしまったのですね。

そんでもって、まるで反射するかの如く気を抜いていた海馬の後頭部目掛けて一直線!
遊戯君起き上がりこぼしの完成です☆

たまたまその場面に遭遇した、そうですね、仮にA君とでもしておきましょう。彼は後にこう語りました。


「いや〜、奇跡を見ちゃいました。もう開いた口が塞がらなくってぇ〜。」と。


「う、うぅ…。」

掠れた声で呻きを漏らし、遊戯は目覚めました。
暑さに寝起きが加わって、頭が更にボーっとしているのです。

よいしょ、と立ち上がってみれば、あれれ?どうしたことでしょう?
妙に視線が高いではありませんか。

何やら良い眺めです。
空気までもが美味しく感じられました。


「なんでかなぁ…?」

疑問を口にしてみて、またもや彼は頭に疑問符を浮かべます。
少し鼻の掛かったような、艶のある声。
しかも何だか聞き覚えがあるのです。

すぐ近くのトイレにある鏡を覗き込めば、そこにはすらりとした長身が映し出されていました。


「あれ?…あっれれれ?」

ぺたぺたと鏡に向かって、自分の顔を触りまくる彼は周りがら見ればどう考えたってナルシストです。ナルシー君です。

ほら、今通り過ぎて行った人もやっぱりそんな目で彼を見ていますよ。


「海馬君だ…。」

茫然とそう言い放った遊戯でしたが、彼の脳はやはりぼけぇーっとしていたのでした。


「あ、そっか。これは夢なんだ〜!凄いや!ボクが海馬君になれるなんて〜!」

鏡の前でニコニコと独り言を言うその姿は、はっきり言ってかなり浮いています。

るんるん気分で教室まで歩いてみれば、足の長さの違いも歴然。
一歩一歩が大きくて、あっと云う間に辿り着いてしまいます。

同じものを見ている筈なのに、目線が高くなると世界が全て違って見えました。
窓から見える景色すら、輝いて見えるのです。

うっとりとしながらドアを開けば、そこにも見知った情景が見えました。
クラスメイト達、仲間達。
休み時間を満喫する彼等がそこにはいました。

海馬が登校するなんて珍しいな、と皆が思い、城之内あたりが口にしようとした矢先、海馬の姿をした遊戯がある一点を見つめて瞳を輝かせます。


「わぁ〜!」

語尾にハートが飛びそうなその声に、人々は一歩後退しました。

しかも可愛らしく胸の前で手を合わせたりするものですから、クラスメイト諸君の顔が真っ青です。
今一人、蒼白な顔で口を押えて走り去って行きました。

仲間達から見ても、海馬のその姿はなんともおぞましいもの。
皆一様に顔を引き攣らせておいでです。ハイ。

そんな様子に気づいてないのか、或いは気取らぬ振りをしているのか、間違いなく前者でしょうが…、海馬の姿をした遊戯はずんずんと仲間の一人に詰め寄って行きます。

驚愕のあまり切れ長の目をこれでもかと云わんばかりに開き、固まっているもう一人の自分へと。


「うわぁ〜!もう一人のボクが小さーい!」

興奮に上擦った声に、皆の背中が泡立ちます。
ぞっとする、とは正にこの事でしょう。
一種の恐怖に硬直したままの身体を抱え上げられて、〈遊戯〉の背筋を更に氷塊が滑り落ちました。


「あは〜!凄い凄い!もう一人のボク、かるーい!」

細身でありながら、しっかりと筋肉の付いた海馬の肉体にご満悦の遊戯君。

両手で脇を抱え上げる所謂高い高いです。
された方としては脇が痛くてちょっと不愉快なアレですね。

夢だと信じて疑わない遊戯は、それはもうしっかりばっちりこの機会を満喫しておりました。

イッツ・ア・エンジョイ☆

数秒間されるがままになっていた〈遊戯〉ですが、我に返った瞬間、悲鳴が喉を突きました。

「や、やめろ海馬!!何をするんだ!うわああああ!!!」

脇の痛さ以前の問題に、目を見開いて大暴れです。


「あいたっ!…もう!照れちゃって、可愛いんだから!」

肌の艶が見える程屈託無く微笑む遊戯(海馬)に〈遊戯〉の瞳孔が開いております。

一瞬、意識が飛びました。
まさか海馬に可愛いだなんて言われる日が来るなんて露程も思っていなかった〈遊戯〉です。

言われたくもなかったと、その必死な形相に書いてあります。
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