短編

□俺が貴様でボクが君!?
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俺が貴様でボクが君!?


とある夏、とある町のとある学校のとある休み時間。
とある学校のとある廊下をとある武藤遊戯君はてくてくと歩いておりました。
ん?彼は一体何処へ行くのかって?
休み時間に赴く場所と云えば、一つしかありません!
それは、好きな子の縦笛をこっそり盗むとかそう云うのじゃなくてですね…、ほら、人間の生理現象ですよ。
だぶるしーってヤツです。簡単に云えばトイレです。またの名を便所。厠。
獏良君はトイレなんて行かなくても武藤君は行くもん!多分!!


「しずまーない〜♪たーいよぉ〜♪」

暑い廊下で歌の一つも口ずさんじゃう遊戯は決して上機嫌な訳じゃないのです。
ただ暑さでぼーっとしているだけなのです。

誰もがヘバるこの暑さ。
外では喧しく蝉が声の大合戦をしています。
彼等は暑さなんてなんのその、窓枠にくっ付いて一匹でも大熱唱しちゃうのです。

時折、窓側の生徒がその煩さに鉛筆を折ってしまうとかしないとか。
若干覚束ない足取りで用を足し、フラフラとトイレを後にする遊戯君。


「まっすぐなれぇーるーとぉ♪けわしーるぅと〜♪」

何処となく歌にもやる気が感じられません。
それでも、学校の廊下は気合を入れて注意深く歩かなくてはならないのです。

何故?と思ったあなた!
【廊下は走ってはいけません!】と云う暗黙の了解を覚えていますか?

小学生の時に口酸っぱーく言われるアレです。

しかーし!暗黙の了解、約束なんてものは破られる為に存在するのです!

あ、いや、破っちゃいけないんですけどね、ほ、ほら、破る人って居るよねー、とかそーゆー話でして…。
つ、つまり、ボケーっと歩いてたりしたら突然曲がり角で誰かとぶつかったりしちゃうかもしれないわけですよ!

「ちょっと!どこ見てんのよっ!」「あ、ご、ごめん…。(赤面)」なんてありがちなデロ甘展開になればまだ良いでしょう。

現実はそんなに甘くはないのです。

もしも相手が陸上部のエースだったら?ラグビー部のキャプテンだったら?
ぶつかるどころか、轢かれます。
撥ねられて空を舞って、頭から落ちて、首が嫌な音を立てて変な方向に向いたらどうしますか!!

良くても、頭と頭がごっつんこして鼻血がピュー、ですよ!
経験がある人もきっと居る、筈!

見通しの悪い学校の廊下こそ、カーブミラーを設置すべきだと思うのです!!
校内の交通事故を無くそう!


「かごの〜なかぁでらーららーらららら〜ら〜らーらーらららららーら〜♪」

歌詞を忘れたのか歌う事が面倒臭くなったのかハミング発動しております。
ふらふら〜、と歩く遊戯が曲がり角に差し掛かります。
誰かカーブミラーを設置してあげて!
陸上部のエースに跳ねられてしまいます!
ラグビー部のキャプテンにエルボーかまされてしまいますぅぅ!!!


「うわっ!?」

遊戯の視界が突然遮られました。
どんっと音がして足下がよろけます。
誰かとぶつかっちゃったのです。

言わんこっちゃない。


「わ、わわわっ!」

不幸中の幸いか、どうやら相手は陸上部でもラグビー部でも無く、走ってもいなかったようです。

撥ねられなくて良かったNE☆
その相手と云えば、制服も着ずに白いコートを靡かせて、悠然と立っているのでした。


「…遊戯。貴様、俺の前に立ち塞がるとは良い度胸…ぬっ!?」

珍しく登校してきた海馬が冷ややかな目で遊戯を見下ろします。

見下ろしたは良かったのですが…。


「わっ、わたっ!わわわわわ!」

バランスを崩し、自分の足に自分の足を引っ掛け、それを直そうとして海馬の脚に遊戯の足が引っ掛かり…。
もう何が何やらさっぱりです。

「わ、わわー!!」

「ゆ…!貴様ッ!…危ッ!危っ…!!」

端から見ると、不思議でヘンテコなフォークダンスを踊っているよう。
前へ後ろへ上体を振り、腕をバタバタ。
足が絡んで転びそうになる度にお互いを突き飛ばそうとする始末です。

そんな奇怪舞踏は長々と続くものではありません。
遂にぐらり、と遊戯の身体が傾いだのです。

慌てて海馬に手を伸ばすものの、共倒れは御免だと謂わんばかりに叩き落とされてしまいました。

非常に非道ですね。正に非の二乗。

何とか屈み込んで体制を立て直し息を吐く海馬とは裏腹に、拒まれた手が弧を描きながら遊戯は倒れていくのです。スローモーションで。

その表情は、時として力を貸し合い、共に高め合った好敵手であって仲間だと信じて居た彼の裏切りに愕然として…。
なんてことはなく、「げ…っ!?」と云うよくある表情を浮かべて居ただけでした。

なので、これから起こる常識的でない衝撃など、微塵も感じてはいなかったのです。


ガン☆ゴンッ☆


鈍くてちょっとヤバめな音が立て続けに二つ、廊下に木霊しました。
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