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□Immorality
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大きな手に太い腕、すっぽりと包み込むように覆い被さってくるがっちりとした体躯。辛うじて、大人の男だということだけは分かる。

その人物は、前に回した手でツナの上半身を撫で回し始めた。

「んぅぅっ、ぅっ…ふ、んんーっ!」

(やだっ!やだやだっ…!)

体操服の上を這い回るごつごつした手に、背後にぴったりと張り付いてくる身体の生暖かい感触に、恐怖と嫌悪感が沸き上がってくる。さらに、はぁはぁと熱く荒い息が耳に掛かって、ぞわぞわと鳥肌が立つ。

ツナは上手く動かない手足をばたつかせて、がむしゃらに暴れた。
何をされるのか分からず、顔も見えない。もし外部から侵入した不審人物だったら……恐怖で頭の中がぐちゃぐちゃになったツナは必死だった。

すると、めちゃくちゃに動かしていた腕の肘が、男の脇腹に当たった。「うっ……」と引く呻いた瞬間拘束が緩んで、ツナは勢い良く前へ倒れ込む。

「はぁっ、はぁっ…だれ……えっ…?」

慌てて男から離れて振り向くと、そこに立っていた人物にツナは目を瞠った。

「せ、先生……?」

それは、さっきまで体育館で授業をしていた、ツナ達のクラスを担任している体育教諭だった。
長身でがっちりとした体格に強面の、いかにも体育会系といった容姿だが、明るく気さくで、生徒からの評判は良い人物だ。

「先、生…何で……?」

ツナが、その教師を茫然と見上げながら尋ねる。

これが生徒だったら、ふざけているか虐めようとしているかのどちらかだし、外部の人間なら金が目的か、単に暴力行為を働こうとしているのだということが分かる。だが、相手は仮にも教師で……何を考えているのか、なぜこんなことをするのか全く理解ができない。

その教師は問いには答えず、ただじっとツナを見下ろしていた。

だが、その表情はいつものに人の良さそうものではなく、無表情で、瞳は何かぐらぐらと沸き立つような熱を孕んでいて。

ツナは、ぞくりと身体を震わせた。

「あ、あの……」
「……沢田が悪いんだ」
「え……?」

しばらくして、ようやく男がぽつりと口を開く。

何を言われたのか分からず聞き返したツナは、だがサッと表情を強ばらせた。

無表情だった男は、うっすらと笑っていた。いつも生徒に見せる笑顔ではなく、にやりと、背筋が凍るような笑みで。口元は笑っているのに瞳だけは笑っていない、射抜くようにツナを見つめたまま。

ツナは無意識に、一歩後ろへ下がっていた。

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