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□花祭り
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「さっ、早く行こっと!」

農具を道具入れに直して、うきうきと広場に向かおうとした時、

「おっ、いたいた。おーい、ツナぁー!」

突然名前を呼ばれ声のした方を振り返ると、牧場の入口に二人の男女が立っていた。

「あ、家光さん、奈々さん!おはようございます!」

それは、町で宿屋と居酒屋を営む夫婦だった。二人はツナがこの町へ来て行き倒れていたところを助けてくれた命の恩人で、それから何かと世話を焼いてくれるのだ。

可愛らしい顔立ちの奈々が、ツナの姿を見てニッコリと笑う。

「良かったわぁ、まだ牧場にいたのね」
「え?あ、はい、今から広場に行こうかと……」
「じゃあちょうど良かったな!」
「そうね!急いで準備しましょう!」
「へっ?準備?」

楽しそうに笑う二人に、意味が分からず首を傾げるツナ。今日は女の子が主役のお祭りだと聞いていたのに、何の準備をするというのだろうか?

「はいっ、ツー君!これをどうぞ!」

頭にはてなマークを飛ばすツナに、奈々が手に持っていた何やらピンク色の布を渡す。

広げてみると、それは肌触りの良い生地に、フリフリとしたスカートのワンピースだった。ちなみに家光は、色とりどりの花の付いた花冠を持っている。

雑貨屋さんのハルに見せてもらったので見覚えがある。これは花祭りの衣装だ。

「さ、ツー君!早くこれに着替えて、花祭りに行かなくっちゃ!」
「えええええっ!?」

ニコニコと満面の笑みを浮かべる二人とは正反対に、ツナは大きく目を見開いて叫んだ。

(どどどどういうこと!?どう見てもこれって女の子の服だよねスカートだしピンクだしっ俺男なんですけど今日って女の子のお祭りだったよねーっ!?)

突っ込みどころが多すぎて、軽くパニックを起こしていた。

「あ、ああああの奈々さん?こ、これは……」
「あ、実はこれ私が若い時に花祭りで着ていたものなのよ。ツー君にピッタリだと思って」
「いやいや俺男なんですけどっ…!」
「やぁねぇ知ってるわよ。でもツー君可愛いしきっと似合うから大丈夫!」

いやいやいや全然大丈夫じゃないし嬉しくないしってかそういう問題じゃないんですけどぉぉっ!

それに、と奈々が続ける。

「この衣装は本当は自分の娘に受け継がれるものなんだけど、私達にはまだ子どもはいないから……」
「ぁ……」

少し寂しそうに言って、家光が慰めるようにその肩を抱く。

(ずるい…そんな顔されたら、断りづらいじゃんか……)

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