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□Unexpected
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先ほどの水が、“鎮静”の特性をもつ雨の炎から生まれたものであるということを、過去から来たばかりのツナが知るはずもない。
男は、水にぐしっしょりと濡れ、とろんとした表情のツナを見て、舌なめずりをした。
「この程度の匣兵器で驚いてもらっては困る。次はもっと凄いものでお前を可愛がってやるのだぞ」
頭が上手く回らなくて、男の言っていることが良く分からない。逃げななければならない、それだけは分かるのに身体が動かない。
その時、何かぬるりとした感触のモノがツナの足に触れた。
「っ、ひ…!?」
弾かれたように下を見ると、白くて所々に吸盤のようなものが付いた何かが、自分の足に絡み付こうとしている。
「ゃっ…なに……!?」
ぬるぬるとした感触に、沈みかけていた意識が浮上する。怖い。気持ち悪い。
堪らず足から引き剥がそうとするが、ぬるついていて上手くつかめない。
触手のようなそれは、あっという間に両手両足に絡み付いてきた。
「ゃっ、はなしてっ…!気持ち悪いっ…!」
「この時代のお前には近付くことすらできなかったが……今のお前をいたぶるのは、赤子を扱うくらい容易いな」
「ぁっ…!」
男はじたばたともがくツナの顎をつかんで、その顔を覗き込んだ。
髪と同じハニーブラウンの大きな瞳は怯え、うっすらと涙を浮かべている。
それを見た男は、沸き起こる加虐心にさらに歪んだ笑みを浮かべる。
そこへ、どこからか現れた別の触手が、服の裾や襟元からするりと中へ入り込んできた。
「ひっ…!」
舐めるように上半身を這い回るそれに、ツナは嫌々と首を振る。得体の知れない、おぞましいものに身体を捕らわれて、恐怖と嫌悪でおかしくなりそうだった。
「ゃぁっ、やだっ…!」
「気持ち良いか?雨巨大イカの足は」
「ぇ……?」
ふと顔を上げると、男の向こう、触手の先に巨大な生き物がいた。それは天井に届くくらい大きく、フクロウと同じ青い炎をまとっている。
その名の通り、巨大なイカだった。
そして、そこからうねうねと蠢く、大量の足。そのうちのいくつかが、ツナの身体に絡み付いている。
「ひ、ぃっ…!」
その不気味であり得ない生き物に、ツナの顔が真っ青に染まった。
他の触手もだんだんこっちに近付いてきて、ツナの身体に足を伸ばそうとしている。
「ッ、ぁぁっ!」
必死に引き剥がそうと暴れていると、急に胸からビリビリとした衝撃が走って、身体がびくっと跳ね上がった。