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□At an atelier
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「……ただいま。良い子にしていたかい?」
「っ……!」
ドアの開く音に、部屋に響いた声に、大げさなくらい肩を跳ねさせてしまう。
恐る恐る顔を上げれば、自分を見つめる男の目と視線がぶつかった。
全身を舐め回すような、絡み付くような淫靡な視線に背筋が震える。
「俺がいない間、一人で寂しかっただろう……?」
うっとりとした笑みを浮かべながらこちらに近付いてくる男。思わず、ベッドの上で後退ってしまう。
「今日も可愛がってあげるからね…ツナヨシ……」
「ひっ……!」
狂気とも言えるような色が混じった瞳に、ツナは怯えた表情で身体を震わせたのだった。
ここへ来て、一体どれくらいの時間が経ったのだろうか。何故こんなことになってしまったのか……自分はただ、ここイタリアへ父親を探しにきただけなのに。
***
物心ついた頃から中学校に上がるまで、母親と二人で暮らしてきたツナ。
それがつい最近になって、自分の父親はイタリアにいるということを知った。仕事の関係で会うことができず、ずっと離れて暮らしていたらしい。
ツナは、父親がいなくて寂しがる母親のために、また自分も会いたくて、学校の夏休みを利用して一人でイタリアにやってきた。団体のツアー客に紛れて。
途中で抜け出して、父親を探すために。
何の仕事をしているのか、どこにいるのか分からない人間一人を探そうとするのはかなり無謀だと思う。土地も、言葉も分からない異国の地で。
だが、ツナはどうしても父親に一目会いたかったのだ。
そして無事にイタリアに着き、自由行動になってから向かったのは……たくさんの人が集まる大きな公園。
(一人になったのは良いけど、どうしよう……)
勢いでここまで来てしまったが、父親に会いたいという気持ちだけが急いて、この後のことを考えていなかった。
半ば徒歩に暮れていると、
「君、どうかしたのかい?」
不慣れな日本語で声をかけられて、ツナは驚いて顔を上げた。そこにはイタリア人らしい青年がいて、ツナを不思議そうに見下ろしている。
背が高く、とても整った顔立ちをしていて、ツナは一瞬見惚れてしまった。
「何か、困ってるんじゃないかい?」
「あ、あの……」
優しげに微笑まれて、かぁぁと頬を染めてしまう。
そして誘われるまま、近くのレストランで食事をすることになった。
異国の地で親切にされたのが嬉しかったのか、馴染みのある日本語に安心したのか、ツナは男に一切の事情を説明していた。