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□Innocent
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放課後。校舎には、まだ下校せずに教室で騒ぐ声、グラウンドからも部活動に励む生徒達の声や音がする。
だが、それも少し離れたこの特別棟には、僅かに聞こえてくるだけでほとんど届いてはこない。
そんな中、静まり返った棟の特別教室の一つから、ガタガタと微かに物音がした。
「んっ、んんっ…んーっ!」
理科実験室の隣にある準備室。明かりは点いておらず、窓から夕日だけが差し込む薄暗い部屋。
そこから、誰かのくぐもったような声が聞こえた。
良く見ると、たくさんの書物の入った棚の下で、大きな影がごそごそと動いている。それはどうやら人のようで、そこには二人の人間が重なるようにして何かをしていた。
一人は、ブレザーにスラックス姿の、この並盛高校の生徒だ。切れ長の瞳にノンフレームの眼鏡をかけ、すらりとした長身に制服をきっちり着こなした、優等生らしい少年。
だが、その生徒は整った顔立ちに冷酷な笑みを浮かべて、もう一人の人物に覆い被さっていた。
そして、その男の下に仰向けに倒れているのは、スーツを着た若い教師だった。教師といっても、大きな瞳に可愛らしい顔立ちはまだ高校生にも見えるし、身体は小さく華奢で、恐らく背も低いだろう。
さらにその青年は、スーツ姿だがカッターシャツの前をはだけられ、下は下着だけでほっそりとした足が丸見えだった。
青年の周りには、脱がされたネクタイやスラックスが散らばっている。そして両腕を頭上で縛られ、口にはタオルのような物を詰め込まれていた。
「んっ、んぅぅっ…ふ……!」
大きな瞳いっぱいに涙を溜めて、青年は怯えたように生徒を見上げる。何とか抜け出そうと男の下でもがくも、自分よりも体格の良い人間にのしかかられ、身体を押さえ付けられていては無意味だった。
「ふふ……まだこれからですよ?ツナ先生」
「っ……!」
端正な顔を近付けてにやりと笑う男子生徒に、ツナは恐怖に絶望的な表情を見せた。
***
沢田綱吉……通称ツナが大学を卒業し、教師になって早数ヶ月。偶然にも母校である並盛高校に赴任したツナは、毎日がてんやわんやだった。
何せ小さい頃から勉強、運動を始め、何をやらせてもダメダメだったのだ。教師になれたのも奇跡に近い。
そして教師になってからがさらに大変で、慣れない授業や生徒の相手、保護者との付き合い……その他たくさんの業務に追われながら、必死に学校生活を送っていた。