From flowery bowers
□第3章
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母親にもどうするのか聞かれてたけど、寮に残ることを伝えた。わざわざ数日だけ帰ってまた戻ってくるのも面倒くせぇし、帰っても家でゴロゴロするだけだから……寮にいるのと変わらないだろ。旅行に行く予定もねぇし。
それを言ったら『なんて冷たい息子なのかしら』とかわざとらしく言ってたけど、あれは帰って世話を焼く必要がないから絶対に喜んでたと思う。俺の母親はそういう人間だ。
何より……ゴールデンウイーク中に、とある予定が入ってたから。
『学校は……どう?』
『別に、普通』
そのとある日に……アイツと会った。この前の帰り際に約束したのが、その日だった訳だ。
何てことはない。また街で会って、昼飯食ってお茶してちょっとブラブラして……普通に別れただけだ。
話も特別変わったことじゃなくて、俺の学校生活のこととか、互いの家族のこと。当たり障りのない、普通の友人というか、知り合い同士の会話だ。
『そっかぁ……』
アイツは、やっぱりどこかよそよそしいっていうか……まだ緊張してるみたいだった。相変わらず困ったように笑ってたし、遠慮してるのか、恐る恐る会話してるっていうか。
まぁ、元々そこまで深い付き合いでもねぇし、それでまるまる六年間会ってなかったんだから……いきなり親しげにっていうのは無理なのかもしれねぇけど。
ただ、
『っ……』
『………』
『あ…ごめん……!』
歩いてる時に不意に身体が触れ合ったり、俺が動かした手が近付いたりしたら、驚いたように身体を跳ねさせるのが……いや、傷付いたとかそんなんじゃなくて、
(……ウサギみてー)
臆病で警戒心の強い小動物みたいだなって思っちまう自分は……よっぽど癒しが足りないのかもしれない。またあの場所に行かないとな。
にしても、やっぱりアイツの様子からして……俺には会いたくないんだろうな。始終落ち着かない雰囲気だったし。
それに、詳しくは触れてないけど……中学を出てからの六年間とか、今どこに住んで何の仕事をしてるとか……アイツ自身のことを、本人は全然話さなかった。話すつもりもなかったんだろう。
聞かれたくもなかっただろうから、俺も何も聞かなかったけど。
だから、アイツが何をしてるのか、何を考えてるのか……何も知らない。
(いや……)
それは、今だけじゃなくて、もっと昔から……
……そんな感じで、ゴールデンウイークも中間テストも、特に変わったこともなく普通に終わった。