From flowery bowers
□Prologue
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ゴツゴツした大きな手。どうやら、大人の男の人のようです。
それも、相手は二人。
「……ずっと張ってた甲斐があったな」
「ああ……けど、本当にこんなのが金になるのか?」
「………!」
まだ状況が上手く理解できていない僕の頭上から降ってきた、低くガラの悪そうな二つの声。ですがその言葉や雰囲気から、この男達が学校の教職員ではないということが分かりました。
「さぁな、だが俺達は黙って命令に従えば良いんだよ。それより、コイツをここから連れ出すまで油断するな」
「分かってるよ……おい、お前も抵抗しようなんて思うなよ」
「っ、むぐっ…!」
タオルのような物を口に押し込まれて、声を出せなくされてしまいます。そして、ようやく確信しました。
何ということでしょう。僕は、どうやらこの男達に“誘拐”されようとしているのです。
確かにこの学校はかなりのお金持ち校で、結構な家柄の生徒も少なくないのであり得ない話ではないかもしれません。ですがドラマや映画ならともかく、まさか実際にそんな事件に自分が巻き込まれるなんて誰が思うでしょう。
助けを求めようにも、学校内とはいえこんな人気のない林の中に誰かがいるなんて思えません。何より恐怖で身体が固まってしまって、ろくに動くこともできません。
これからどうなるのか、どこへ連れて行かれてしまうのか……最悪の事態が頭を過り、ただ震えることしか出来ませんでした。
何も悪いことなんてしていないのに。うっかり夜に出歩いたばかり遭遇した……不幸。
あ、けれど……もちろんこの状況もとんでもなく恐かったのですが、恐ろしい体験というのはこれでもなくてですね……
そう、まさにこの後のことだったのです。
「よし、誰か来ないうちに早く行くぞ」
「ああ」
「っ……!」
僕の身体をつかむ手に力が込められて、担ぎ上げられようとした……その時でした。
「―――よぉ、何してんだ?」
「「「!?」」」
その場にそぐわない、やけに軽い声が響いたのは。
まさかこんな時間の、こんな場所に誰かがいるなんて思ってもみなかったので心底驚きました。僕でさえ飛び上がったのですから、絶対に見つかることが許されなかった男達にとっては、その驚きようは比べものにならなかったでしょう。
「チッ、何だテメェ―――」
ですが、
思わぬ珍入者に振り返った僕達は、
「っ!?!!」
「っ、は!?」
そこで、さらに驚くことになりました。