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□人の噂も何とやら
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「……あのさ、獄寺くん……」
「はい、何でしょう十代目」
「えっと、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」
「?はい」
「その……もう、部屋まで送り迎えしてくれなくていい、よ?」
「……はい?」
間もなく日も暮れて、辺りが暗闇と静寂に包まれるであろう、イタリアのボンゴレファミリー本部。
その執務室で、本日の業務を終えようとしていたドンボンゴレ十代目、沢田綱吉……ツナは、側で書類をまとめていた嵐の守護者、獄寺隼人にそう言った。
遠慮がちに、恐る恐るといった様子で発したその言葉は、だが優秀な右腕に衝撃を与えるには充分だったらしい。
「っ、な……そ、それは……何故、ですか……?俺、十代目に何か失礼なことを……」
「や、そうじゃないよ!そうじゃない、んだけど……いつも、わざわざ悪いなぁ、って思って」
「十代目を部屋までお迎えに行き、送り届けるのは俺の任務、いや、使命です。それにアジトとはいえ、いつ危険が迫ってくるか分からないんですよ」
「う、うん、うん……それは、そうなんだけど……」
努めて冷静に振る舞おうとしているが、獄寺の顔面は蒼白で声は震えていた。これが十年前だったら、激しく取り乱してツナの身体をがっくがっくと揺さぶっていただろう。
そう思えば大人になったと感じるが、その表情や気迫は凄まじいもので……これなら昔の方がまだマシかもしれない、と明後日のことを考えてしまう。
分かってはいたが、予想以上の反応にツナは若干引いてしまっていた。ジリジリと迫ってくる獄寺と、視線を合わせることができない。
(これは、やっぱり話すしかない、のかなぁ……)
いつも苦労をかけて悪いから、という理由では納得してもらえないらしい。本当のことを話さないのは、どうやら無理そうだ。
「いや、あの……ちょっと近すぎるかな、って思うんだ」
「と、言うと……?」
「獄寺くんだけじゃないんだけど……みんなと、その、俺との距離感、みたいなのが」
だが、意を決しはしたものの、はっきりと伝えることは到底できなくて、結局は曖昧に濁してしまうのだった。
何故、ツナが突然こんなことを言い出したのか。事の発端は、今から少しだけ前に遡る。
日本から来た青年、沢田綱吉……ツナが十代目ボスに就任して、早数年。ボンゴレファミリーの日常は、かつてないほど穏やかに流れていた。
歴史の古く格式も高い、強大な力をもつマフィアのボスとなったのが、小さな島国出身の若い男。ただでさえ幼く頼りなく見られる容姿に加えて、性格はマフィアとは思えないほどの平和主義者。