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□夜半の月の下で
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しかも、雲雀は普段日本にいるので、そう簡単には会えない(会ってはくれない)。そのため、あの事件からすでに数ヶ月も経ってしまったのだが……

ツナは寝る間も惜しんで仕事をこなし、周りに助けてもらいまくって、何とか数日の休暇を得ることができたのだった。もちろん、日本への里帰りのための休暇である。

実家にいる母親にも並盛の知人にも会って話はしたが、何よりも今回は……早く雲雀に会いたかった。

ただ、

(うーん……どうしよう)

静かな月明かりの下、雲雀に酒をつぎ自分もちびちびと飲みながら、ツナはろくに喋れないでいた。
雲雀は先ほどから何も言わない。何も言わないが、ツナからの酒は静かに受けている。

(お礼、言わなきゃいけないんだけどな……)

本当なら真っ先に伝えなければならないのに、喉の奥でモゴモゴとつっかえているのだ。酔っている訳ではない。単純に、雲雀にどう話しかければいいのか、いまだに分からないからだった。

先ほどこの屋敷を訪ねて、久しぶりに会った彼に声をかける時でさえ……何を言おうか迷って時間がかかったのだ。普通に「こんばんは」にするか「お久しぶりです」がいいのか……果てには「月が綺麗ですね」なんて訳の分からない言葉まで頭を巡っていた。
それで、結局はぎこちない挨拶になってしまったのだが。

それほど、雲雀との付き合いは難しい。いきなりトンファーで殴られることは滅多になくなったが(それでもゼロではないけれど)、この男が何を考えているのか、十年の付き合いになるツナでも図りかねていた。

それでも、

(平和、だなぁ)

気まずさや居心地の悪さは、不思議と感じなかった。月や夜の庭を眺めながら、会話もなくのんびりと酒を飲む。

それは、何を考えているのかは分からないが、今の雲雀からは攻撃的な雰囲気がなく……ただ静かな空気が流れているからかもしれない。いや、本当に何も考えていない可能性が高いのだが、だからこそ逆に居心地がいいというか。

そして、そんな彼とこうしていることができるのは、やはり……

「……ありがとうございました」

雲雀が、ツナの必死の作戦に協力して、また過去の彼も一緒に戦ってくれたから……無事に世界を救うことができたからだろう。

そう思うと、自然に感謝の言葉が零れていた。多少、酒の力もあるのかもしれない。先ほどよりも、身体がじんわりと暖かくなっている。

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