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□夜半の月の下で
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――――――並盛の夜は、静かなものだ。

町の一角にある、今の時代でもお屋敷と呼ぶのに相応しい家屋。平屋でそこそこの敷地を誇るそれは、この平凡な町内でかなりの風格を表しつつ、それでも自然に溶け込むような風貌を見せている。

そして、その屋敷が誰のものなのか……町の人間で知らない者はいない。

敷地内には、母屋の他に日本庭園に囲まれた離れがあった。その縁側の近くで……黒の着流し姿の雲雀恭弥は、手元の本のページを静かにめくっていた。

部屋の明かりはついていない。空に浮かんだ月の光と、近くに置かれた小さなランプの光だけで、綴られた文章を追っていく。

薄着でも寒さを感じる季節ではなく、たまに虫の鳴く声や、夜風で草木の擦れる音がしている。そこまで治安が良いとは言えない町だが、大きめの通りの喧騒も遠くに微かに聞こえるだけで、それが逆にこの辺りの静けさを引き立てていた。
ページをめくる音も、澄んだ空気の中では際立って響く。

そんな、普段とあまり変わらない……静かな並盛の夜だった。

「…………」

それが不意に変わったのは……他に誰もいないはずの離れに、別の気配が現れたからだ。この時間帯、雲雀はいつも一人で、よほどのことがない限り誰もここへは近付かない。

こんな夜更けに、並盛で最も恐れられている男の元へやって来るのは……

「……ごめんくださーい」

よく耳を澄まさなければ聞こえない、ちょっと頼りない感じの声が響いた。部屋の入り口ではなく、縁側の向こうに広がる庭の方から。
だが、雲雀はそちらに視線を向けることなく読書を続けている。

やがて、

「あの……こんばんは、雲雀さん」

ひょっこりと、月の光で僅かに照らされた庭に…細身の青年が現れた。ラフなシャツとパンツ姿のその人物は、沢田綱吉……ボンゴレファミリーの、十代目ボスだ。

……には全く見えないような様子で、遠慮がちに雲雀に声をかけた。

雲雀の方も、ようやくそちらへ意識を向けて……ただ、視線をちらりと寄越して「やぁ」と言っただけだった。何をしに来たんだ、と思っているようにも見える。

だが、心が折れるツナではない。返事をくれただけでも、今日の機嫌は悪くはない、ということなのだ。

「ええっと…やっと日本に帰ってこれたので、挨拶に……」
「…………」
「あれから、ゆっくり話せてなかったし……その、久しぶりに……飲みませんか!」

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