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□A passion
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入り口の壁にもたれかかってこちらを眺めているのは、営業本部の部長である三十代の男だった。役職に就くには若すぎるその男は、鋭い視線と顔立ち、雰囲気で上に立つに相応しいと感じさせる。

その切れ長の瞳がさらに細められこちらを見つめるので、ツナはますます竦み上がった。

「ぶぶぶ部長……なん、何でこんな所に?」

本部から少し離れた、それも定時を過ぎてツナしかいない所へ、一体何の用なのか。だが、ツナはその理由を嫌というほどよく分かっていた。
というか、それが嫌で一人で残業などしたくなかったのだが。

ツナの問いに男はすぐには答えず、壁から背中を離すと部屋の奥へゆっくり入ってきた。もちろん、ツナの方へ向かって。
明らかに身の危険を感じるのだが、ツナは動けないでいる。

果たして、

「なに、デスクワークだけでは肩が凝るだろう。……いつもの、分かっているな?」
「っ……!」

誰もいないというのにわざと声を潜めて、耳元で低く囁かれた言葉に……ツナは怯えたように顔を強ばらせるも、次の瞬間頬を朱色に染めたのだった。


***


場所は変わって、ビルの地下フロア。ここには様々な荷物や段ボール箱、機材などが雑多に置かれほぼ倉庫と化している。
そのいかにも怪しげな雰囲気を出すフロアの、一番奥にある部屋の中。地下なので窓はなく、外からの光もなければ音も聞こえない。

そこで、

「ちょっ……な、何ですかこれ!」

そこまで広くない部屋の中は、どこか異様な空気が流れていた。その部屋だけは他と違い、奥に小さなスペースがあって……

「だから、いつものだろう」
「だ、だってこんな……!」

何故かベッドが置いてあり、そこに……これまた何故かスーツのジャケットとネクタイを取られ、カッターシャツの前をはだけられたツナが寝かされていた。それも、両腕を頭上で縛られ、目元にはアイマスクを付けられて。

ツナ以外に、部屋には何人かの会社の人間がいた。会社のロゴが入ったいくつかのパッケージを開ける作業をする者、手にハンディカメラを持っている者。

そして、残業をしていたツナに声をかけた、あの営業長である男。その男だけが壁際のパイプ椅子に腰を掛け、ギシギシと身じろぎするツナにしれっと言い放つ。

「毎回抵抗されるのも面倒だからな。あと、万が一顔が映ったらと文句を言っていたから、アイマスクを用意してやった」
「いやいやいや、そもそもこんなことしてる自体おかしいですって!こんな……」

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