Main4

□A passion
3ページ/13ページ



自分の確認不足が原因だったとはいえ、このような会社に入社してしまったこと、そして先輩からのイタズラ(または過剰なセクハラ)を受ける日々。何と社会は辛く厳しいものか。

たが、ツナが憂鬱になっているのは、決してそれらだけが原因ではなかった。

「し、失礼しまぁす……」

本部に到着し恐る恐る顔を覗かせると、ツナのいる所よりも広い部屋の中で、多くの社員が仕事をしていた。どんな仕事なのかは、詳しく言いたくはない。……フロアのいたるところに置いてある、様々なブツについても。

そうでなくても長居はあまりしたくないツナ。一番近くのデスクにいた社員に軽く挨拶をすると、

「こ、これっ……ウチに間違って来てましたっ!それじゃ!」

ビニール袋に入ったそれを押し付けるように渡して、逃げるようにその場を後にしたのだった。そういうモノを扱う会社なので、恥ずかしがることも何もないはずなのなが……顔はゆでダコのように真っ赤になってしまっている。

部屋の中も社員達もよく見ずに出ていったツナは、

「………」

ツナが入ってから出ていくまで、その姿や恥ずかしがっている様子を眺める人間が何人かいることに、全く気付いていなかった。いや、気付かないように、見ないようにしていたと言っても間違いではないかもしれない。

その中で……一際鋭い視線でツナを見ていた人物のことも。


***


「うぅー…終わらない……」

その日の夜。外が暗くなり誰もいなくなった部屋のデスクで、ツナはひたすらパソコンのキーボードを叩いていた。しかし、そのスピードはとてつもなく遅い。

見ての通り仕事の遅いツナは、たった一人で残業をしていた。彼が定時内にその日の仕事を終えることができた試しはなく、いつもは先輩達が交代で手伝ったりしてくれるのだが……今日は、家の都合だのデートだので誰も助けてはくれなかったのだ。もちろん、そんな日もたまにある。

「ヤバい、早く終わらせて帰らないと……!」

そして、ツナはなるべく一人で残業をしたくはなかった。帰りが余計に遅くなる、という理由ではなく……





「……遅くまで精が出るな?」
「っ……!」

突然、静まり返った室内に低い声が響いて、ツナは椅子から転げ落ちるのではないかと思うほど驚いた。その聞き覚えのある声に、全身の警戒モードがマックスになる。

恐る恐る振り返ると、

「っ、ぶ…部長……」

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ