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□A refusal
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他の患者のように、適当にお喋りをしたいのならまだ分かるのだが……そうでなければ、何故自分のような若くて経験の浅い整体師を選ぶのだろうか。
男の雰囲気からか、いつも彼に施術するのはことさらに緊張する。しかも、普段なら他に人がいるから、騒めきや気配で何とかやっているのに……
(うぅ、気まずい……)
今この、自分と男の二人しかいない、静まり返った中では……男に背を向けて準備をしながら、ツナは気付かれないように小さくため息を吐いた。
何とかこの時間を乗り切って、男に満足して帰ってもらわないと……そう考えながら。
……そんな風に、考え事をしていたのがいけなかったのかもしれない。
「……先生」
「えっ……わっ!?」
そう呼ぶ声が、やけに近いような気がした。けれど、それを確認しようとした瞬間……視界がぶれて、背中に衝撃が走った。
「っ、ぁ……?」
気が付いた時には、目の前には真っ白な天井が映っていた。背中には、程よく柔らかいベッドの感触。
そして、訳が分からなくてぽかんとするツナの身体に……影が落ちた。男が、その上に覆い被さってきたのだ。
「え…えっ……?」
何が起こったのかは、まだ分からない。だが、やはり無言で見下ろしてくる男の表情を見て……ぞくりと、した。
いつも覇気がないというか、何を考えているのか分からない少し怖いと感じる表情。それは、今もあまり変わらないのだが……瞳の奥だけが、何かが沸き立つような色をしていて。
危険だ、と……ようやく本能が働いた。
「あ、の…何……」
「……先生」
「ど、退いて…下さい……!」
呼ばれるだけで、こんなにも恐怖が押し寄せてくるものだろうか。耐えられなくなって押し退けようとした手は……だが、簡単に捕らえられ施術台に押さえ付けられてしまった。
「や、やだっ…何…!」
「なぁ、良いだろ…なぁ……」
「やだっ…放して…!」
(怖い怖い怖いっ…!)
半ばパニックになって、何とか男から逃れようと藻掻く。いつも謎の多い不気味な男だが、まさかこんなことをされるとは思っていなかったのだ。
いや、ツナはまだ知らない。これから……男が何をしようとしているのか。
「はぁ…逃げんなよ…!」
「い、やだっ…ぁっ…!」
何とか腕を振り解いてうつ伏せになって、男の下から這い出ようとする。だが、診療台から下りようと身体を起こした瞬間……後ろから強く抱き締められて、今度はうつ伏せに押し倒されてしまった。