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□In the water
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何を言おうとしているのか分からなくて、ツナは不思議そうに男を見上げる。
「だから、そんなに忙しい訳じゃねぇし……良かったら、個人で教えてやろうか?」
「えっ…」
驚くツナに、男はぶっきらぼうながらも優しげな笑みを向けた。その表情に、ツナはまたどきりとしてしまう。
「恥ずかしいかもしれねぇけど、小学生に混じるよりはマシだろ?」
「それ、は……」
「俺も、お前が泳げるようになるよう何とか頑張るから、さ」
「………」
(優しい人なんだ……)
本当はやりたくないけど、そこまで言ってくれる好意を無駄にしたくない。それに、夏休みが明けてもまだプールの授業はあるのだ。
その時までに、少しでも泳げるようになりたいから。
「……やり、ます……」
「そうか……じゃあさっそく始めようぜ」
「は、はい……」
こうして、ツナと男だけの特訓が始まったのだった。
***
ただ、潔く始めたのは良いものの個人レッスンは緊張の連続だった。
「力、入れるなよ。でないと浮かないぞ」
「っ……!」
スイミングスクールが開かれているスペースの端の方。縁に手を付いて、ツナはばた足の練習をしようとしていた。
どれくらい泳げるのか教えてほしいと言われて泳いだところ、すぐにプールの底に沈みそうになって、急きょばた足から教えてもらうことになったのだ。
だが、
「っっ……!」
(これ、思った以上に恥ずかしいっ……!)
中学生にもなってまだばた足ができないとか、マンツーマンで教えてもらっている姿を周りから見られているという羞恥は、この際どこかへ行ってしまった。
それよりも、
「ほら、肩の力抜けって」
「っ……!」
ガチガチになっている肩を軽く叩かれ、解すように揉まれてびくついてしまう。その頬は、冷たい水の中に入っているというのに真っ赤だった。
そう……見られている羞恥よりも、ツナはこの男と密着して手取り足取り教えてもらっていることが恥ずかしいのだ。
同じ男だというのに、肌が触れ合ったり触られたりすると、何だかドキドキしてしまって。
(何考えてるんだよ…相手は、お兄さんなのに…!)
だが彼は、自分と同じ男だとは思えないくらい格好良くて、しなやかな身体をして。
だから、これは憧れているから緊張するのだ。変な意味なんて、ある訳がない……
「じゃあ、身体支えてやるからやってみろよ」
「う、うん……」
頑張らなくては、何のためにここへ来たか分からない。ツナは大きく息を吸い込むと、足を離し顔を水につけた。