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□In the water
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夏休みを直前に控えたある日のこと。

憂鬱な期末テストも終わり長期休暇を前にして、生徒の誰もがうきうきとした気分になる中、

「―――わぁぁぁんもうやだぁぁぁっ!」

どこにでもありそうな平凡な家で、その長男であるツナは叫びながらベッドへダイブした。表情は悲痛な色をして……というか、ちょっと泣いてしまっている。

帰るなり自室にこもってしまった息子に、心配した母親の奈々が扉越しに声をかけた。

「あらあらつっくん、またプールの授業で泳げなかったの?」
「泳げないどころじゃないよぉっ!俺、もう消えてしまいたい…!」

勉強や運動、何をやらせてもダメダメで有名なツナ。どうやら今日は、体育のプールの授業でそのダメっぷりを発揮したようだが……

「大げさねぇ、また次頑張れば良いじゃないの」
「母さんは知らないからそんな簡単に言えるんだよぉっ……本当にあの時間だけは地獄なんだから!」

他の種目や他の教科ならば、できなくても課題を出されたり補習を受ければ良い。だがプールの授業は、それだけでは済まないのだ。

何故なら、並盛中学には“女子行き”と呼ばれる……クロールなど決められた距離を泳げなければ、男子が泳いでいる間に自由時間を過ごしている女子の元で、泳ぎの練習をしなければならないという罰ゲームのようなものがあるからだ。

決められた距離どころか何泳ぎもできないツナは、その罰を受ける常連なのであって。
今日も、片想いをしている女の子がいるというのに、他の女子生徒から笑われながらひたすらばた足の練習を……思い出しただけで涙が溢れてくる。

「うーん、しょうがないわねぇ……」

すると、一向に姿を見せようとはしない息子に、奈々が腕を組んでしばらく考えた後、

「あら、じゃあこうすればどうかしら!」

ぽんと手を打って、とある提案をしたのだった。


***


それから数日後、ついに夏休みに入ったその初日に。

「………」

焼けるような日差しが照り付け、耳に痛いくらい蝉の鳴き声が響く中、

(うぅ…やだなぁ……)

水着に薄手のパーカーを羽織ったツナは、憂鬱な様子でため息を吐いた。目の前には、陽の光にキラキラと反射する水面。そこで思い思いに水遊びを楽しむ多くの大人と子ども達。

ここは、町内にある総合プールだ。水深の違う五十メートルプールが二つ並び、他に子ども用の浅いものや流れるプールなど、割と大きな施設になっている。

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