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□An instinct
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何となく、胸騒ぎのする夜だった。
いつものように、人気のない山の中で行われたリボーンとバジルとの特訓。へとへとになるまで絞られて、ようやく解放された時にはとっくに日が暮れていた。
そして今日は、たまたまリボーン達がどこかに用事があるとかで、ツナは一人で帰ることになったのだ。
(はぁ…やだなぁ……)
しんと静まり返った山道を降りながら、ツナは心細い想いをしていた。暗い山の中を一人で歩いて、怖くならない訳がない。
それに、今日はいつにも増して不安な気持ちになるのだ。薄暗いが月の光がやけに強く、辺りがぼんやりと浮かび上がるように照らされていて。
(早く…帰ろう……)
不安を追い払うかのように首を振ると、ツナはあまり歩きやすいとは言えない山道を急いだ。
だが、
「っ……!」
その時、背筋にぞくりとしたものが走り抜けて、思わず足を止めてしまった。突き刺さるような、鋭い殺気を感じたのだ。
それも以前に感じたことのある、知っている気配で。
「………!」
やがてがさりと草木の揺れる音がして、木々の向こうから現れたそれに……ツナは完全に思考を停止させた。
何故ならそれは、
「……沢田、綱吉」
「っ……!」
腹に響くような、鋭く低い声音。気絶してしまいそうなほどの、研ぎ澄まされた刃のような殺気。
そして、全身黒ずくめの姿にたった一つ異彩を放つ……血のように赤い瞳。
「ぁ……!」
何故こんな所にいるのか、などと考える暇もない。
逃げなければならないのに、足が竦んでしまって動けない。リボーンがいなければ、死ぬ気になることもできない。
そして、
「ザ―――、っ…!」
その名前を紡ぐ前に、その何者かが一瞬で間合いを詰めてきて……気付いた時には、鳩尾に重い拳が叩き込まれていた。
「っ、ぁ……!」
気を失う直前、最後に映った赤い瞳が……にやりと笑ったような気がした。
***
平和な日常に突如降り掛かってきた脅威。イタリアの巨大マフィア、ボンゴレファミリーの特殊暗殺部隊ヴァリアーが、ボンゴレ十代目の地位とその証であるリングを狙って日本へやってきたのだ。
マフィアになる気はないし、争いは絶対に嫌だったのだが、命まで狙われては戦わない訳にはいかない。
そのため、ツナはここ最近ずっとリボーン達と訓練をしていた。数日後に始まるリング争奪戦に向けて。
ツナ自身の戦いはまだ先だが、相手はプロの暗殺者。いくら訓練しても足りないから。