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□白の軛
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何故、兄弟でこんなことをしなければならないのか。だが、ツナは白蘭に逆らうことはできなかった。
何故なら、いつもは優しくて自分を可愛がってくれる白蘭は、本当は怖いから。口元は笑っているのに、瞳が氷のように冷たくて。
それに、白蘭を疑問に思う言動は他にもあった。ツナに、屋敷の外では誰とも関わってはいけない、話をしてはいけないと言うのだ。
『周りにいる人間は、皆敵だよ?』
周囲の人間は媚を売るか、引きずり落とそうと画策する者ばかりだから、決して心を許してはいけない、と。
始めは、ツナも白蘭の言う通りにしていた。言い付けを守らなければ、酷い仕置きをされてしまうから。
狂ってしまいそうなほどの快楽を与えられるから。
だが、
「………」
廊下を歩いていると、周りで談笑していた生徒達がツナをちらりと見て、そして慌てて目をそらす。
いつもの反応に、だがツナは気持ちが深く沈んでいった。
ツナに友達はいない。巨大企業の社長の息子だという理由で敬遠され、他の生徒達は話そうとしないのだ。
以前は何人かの人間が、一人でいるツナに声をかけてくれた。だが、それは決まって白蘭の耳に入って、すぐにキツい仕置きをされてしまうのだ。
そして、親切に接してくれた生徒達は、次の日からはツナと目も合わせなくなる。何故か酷い怪我をして、それどころか転校してしまう生徒もいて。
(みんな…義兄様が……)
ツナは、最近知ってしまった。ツナと関わった人間が怪我をして、転校までしてしまう訳を。
それらは全て、白蘭の仕業だったのだ。
ついこの間も、親切心でツナに声をかけ、忘れ物を家に届けてくれたクラスメイトが―――。
「っ……!」
自分のせいで、せっかく優しくしてくれた人達が酷い目に遭う……今まで関わったきた相手に、胸が潰れそうなほどの罪悪感に捕われる。だが、白蘭には決して逆らえない。
だから、ツナはもう他人と接しないと誓うしかなかった。
同時に、幼い頃から少しずつ大きくなっていた白蘭への疑惑は、はっきりとした恐怖へと変わる。
―――義兄はおかしい、と。
何故義弟である自分にそこまでするのか。今まで育ってきた環境で、他人を信じられないのは分かる。
だがツナは、決してそんな人ばかりではないと思うのだ。
けれど、そんなことを言えばまた手酷く犯されてしまうのは分かっているから。そして、このままでは自分が駄目になってしまうということも。