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□淫贄ノ花
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十代目を継ぐ者として、幼い頃から様々な知識や術を授けられたツナ。だが彼は勉学は大の苦手で、体力もあまりなく身体を動かすことも苦手な上に鈍臭いという、退魔師としては致命的すぎる体質をしていて。

それにツナは争いごとが大嫌いで、本当なら退魔師になるのも嫌だった。だから家光の悩みの種は増える一方で。

だが、

「お前の気持ちは分かる。だがな、俺達は一生退魔師としてしか生きられないんだ。分かってくれ、ツナ」
「それは…分かってるよ……」

申し訳なさそうに、少し寂しそうな顔で言われて、ツナは気まずそうに俯いた。そんな顔をさせたかった訳ではないのだ。

そう、主上に仕えている以上、沢田家はその命に従わなければならない。一族が生き残るためには、身を危険にさらされてでも、人を脅かす妖魔と戦わなければならないのだ。

「それに、お前も感じているだろうが……ここ最近、妖気や負の力が著しく高まっている。その影響で、昨夜みたいな妖怪が多く出てきているんだ」

すると、家光が急に真剣な表情で重々しく話し始めるので、ツナも思わず居住まいを正した。

近頃、この辺りには強い妖気が渦巻き、そのせいで魑魅魍魎、鬼の類も凶暴化して……まだ陽が完全に落ちないうちから、それらが多く都に出没したくさんの被害が出ているのだ。あまりにも頻繁に起こるので人々は酷く恐れ、それが余計に負の力を蔓延させるという悪循環になっている。

「まだ元服を迎えていなお前を駆り出して本当にすまないが、こちらも手一杯でな……」
「……分かってます」

退魔の命を仰せ付けられているのは沢田家だけではない。だが何人もの陰陽師が交代で都を見回り、原因も調べているところなのに現状は変わらず、討伐も人手が足りない状況で。
家光もツナも、毎夜のように都へ繰り出している状況だった。

そのためゆっくりした時間が取れず、ツナの元服の儀を迎えることができないのだ。

だが、

「……分かってるよ」

些か疲れた表情の父親を、ツナは安心させるかのように笑った。

「大丈夫。俺、何とか頑張るから」
「ああ……だが絶対に無茶はするなよ。お前はまだ修行中の身なんだからな」
「うん」

そうして、今日もツナは夜の都へ繰り出していく。

後に、とんでもない目に遭うことも知らないで。


***


何となく、いつもより不気味な夜だった。月は満月に近いが雲が多く途切れ途切れに隠すので、闇に包まれたかと思えば辺りがぼんやりと浮かび上がってくる。

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