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□淫贄ノ花
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それは、筆で何かの文字が書かれた札のような物で……その瞬間、
「―――――!」
その紙から強い光と凄絶な神気が放たれて、一瞬で魔物を包み込んだ。
断末魔の悲鳴を上げながら、おぞましい姿が崩れ邪気がどんどん浄化されていく。
「っ、ぁ……!」
まさか自分の放った呪札が、魔物を消滅させるとは思っていなかった少年は、
「や、やっ……!」
助かったことに歓喜し、表情を輝かせた。
だが、
「っ、うわっ…!?」
神気と妖気のぶつかり合いで生まれた衝撃があまりにも凄まじかったため、見事に後ろへ吹き飛ばされてしまって、
「ちょっ、まっ……あ、ああーっ!」
数秒後、大きな水しぶきの音がして……庭にあった池に、見事にはまってしまったのだった。
この、何とも鈍臭い少年術師が、かの有名な陰陽師家に次ぐ名家、沢田家の嫡男……沢田綱吉である。
***
陰陽道を司る者は悪霊払いや占術、祈祷など様々な方術で朝廷に仕えるのだが……現在九代目が当主を務める沢田家は、特に退魔……魔を払う術、妖魔との戦闘に長けそれに特化した一族だった。
その祖先は約一世紀前まで遡り、初代は異国の地よりこの国に渡ってきた青年だったという。元々霊力が高く魔を払う力に優れていた彼とその血縁奢は、朝廷にはなくてはならない存在だった。異国の血を引き、髪や瞳の色もこの地のものは違う者も多くて、陰では厭われ敬遠されているが……敵に回すよりは、手元に置き飼い慣らそうというのだろう。大衆にはあまり知られていないが、かなりの地位を与えられている。
その為、彼らは余計に表の世界からは遠ざけられ、命の危機にさらされる危険な使命ばかりを背負わされてきた。
そしてその沢田家に、将来十代目を任される第一子が生まれて早十数年。間もなく元服を迎えようとしているのだが、
「……で、ずぶ濡れになって帰ってきたという訳か」
「……そうです」
都の一角にある、あまり大きくはないが格式のある屋敷。その一間で、二人の人間が向かい合って座っていた。
一人は四十に近い齢の男で、金糸の髪と穏やかだが力強い顔立ちの……沢田家九代目、沢田家光。もう一人は十代前半の、昨夜外れの屋敷にいた少年……沢田綱吉だった。
昨夜のことを思い出したのか、ぶすっと膨れっ面をする息子に、家光は苦笑しながらもため息を吐く。
「まーったく、お前はいつまで経っても父さんに心配をかけさせるなぁ」
「だから、俺には対魔師なんて無理なんだって。昨日だって、本当に危なかったんだからな!」