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□淫贄ノ花
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時は平安―――陽の高く昇るうちは雅で華やかな京の都も、夜には魑魅魍魎が跋扈する……まだ人々の生活が妖怪や魔物、人ならざるモノと隣り合わせだった時代。秩序も何もかも、全てが不安定で混沌とした世界。

そんな世の中には、陰と陽を司り魔を払う力を持つ“陰陽師”と呼ばれる人々がいた。そして京には、後世語り継がれるほどの優れた術師であるかの稀代の陰陽師と、その一族がいたのだが……





都には、その一族の次に名を連ねるほどの実力を持つ、とある名家があった。

それは、





「ひぃぃぃぃっ!助けてぇぇぇぇっ!」

丑三つ時を過ぎた、月の光が照らす他は闇に閉ざされた都の、外れにある廃屋に……誰かの悲鳴が響き渡った。
まだ声変わりを迎えていない、高い少年の声。次いで、ばきばきと古い建物が崩れ落ちる音。

そして普段は感じることのない、人からは生み出されることのないようなおぞましい負の気配。

そこには、明らかに人ではないモノがいた。何の生き物かは分からない、人よりも大きく、動物よりも鋭い牙と爪を持つ生き物が。
血走った赤い目をして息も荒く涎を垂らし、普通の人間ならば卒倒しそうな邪気を放っている。

それは、この世界にはびこり人を食らい、酷く忌み嫌われ恐れられている異形……妖魔、妖怪と呼ばれるモノだった。

そして、

「っっ……!」

その魔物の目の前には、一人の少年がいた。まだ十代前半の、小柄で華奢な身体を夜色の狩衣に包んでいる少年が。
先ほどの悲鳴は、この少年のものだろう。

そのふわりとした髪は色素の薄い茶色、大きな瞳も同じ色をして……どちらも、この時代には珍しい色だった。
女子にも見間違えそうなほど幼く、可愛らしい少年の表情は恐怖に引きつっている。腰が抜けたのかその場にへたり込んで、震えながらその化け物を見上げていた。

そして、

「ひっ……!」

その妖怪は狙った獲物を見据え、舌なめずりすると……鋭く咆哮し、一気に襲い掛かってきた。

「っ、わぁぁ来るな来るなぁぁっ!」

恐怖が最高潮に達した少年は、必死で手近にある物をそれに投げ付ける。異形相手にそんなものが通用するとは思えないが、立って逃げられないためそれしかできないのだ。

と、後一歩で獣の鋭い爪が振り下ろされようとした時……手当たり次第に投げていた物の中にあったとある何かが、魔物の額へと貼り付いた。

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