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□Welcome home!
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「ひぇぇ寝坊しちゃったよぉぉっ……!」
まだ太陽が完全に昇り切らない、朝の早い時間帯。
とあるマンションの一室で、誰かがバタバタと慌ただしく走り回っていた。
「わぁぁ間に合うかなぁぁ……!」
所々に寝癖を付けて、どこかの学校の制服の上からエプロンを付けるのは、まだ十代半ばくらいの少年。小柄で大きな瞳は、女の子のようにも見える。
その少年は、危なっかしい手つきや足取りで、キッチンに立って食事の準備をしているようだった。まず卵焼きやウインナーなどを焼いて、お弁当箱に詰めていく。恐らく昼食用だろう。
それが終わると、今度は目玉焼きを焼いたりサラダを作ったりしてテーブルに並べ始めた。
どちらも、二人分だ。
「……あー良かったぁ、間に合って」
やがて準備が整って、二枚のトーストが焼き上がるのを待つだけになった頃、
「あ、そろそろ時間だ」
時計を見上げて、そう呟いた少年……ツナは、先ほどまで自分が寝ていた寝室へと向かったのだった。
まだ辺りが暗いうちから、ツナが朝食やお弁当の準備をするのには、理由がある。
それは親が忙しいとか、通っている学校が遠く離れているからではなく。
(もう起きてるかなぁ……?)
寝室に着くと静かにドアを開けて、ツナはそっとベッドへ歩み寄った。キングサイズのそれは、片側だけが盛り上がっていて……そこに、誰かが静かに眠っていた。
その規則正しい寝息を聞いて、無意識に頬を綻ばせると……ツナは、ゆっくりとベッドへ乗り上げる。ぎしり、とスプリングが軋んだがその人物は起きない。
そして、
「……隼人、隼人。朝だよ、起きて?」
眠っている人物の耳元で囁くと、ゆっくりとその肩を揺らした。
それは、銀色の髪が印象的な、酷く整った顔立ちの青年で。布団から覗く身体は衣服を身に付けておらず、しなやかな筋肉が付いていることが分かる。
「ん……」
本当に小さな声で、僅かに揺り起こしただけなのだが……その青年は微かに声を漏らすと、ゆっくりと目を開いた。やがてその瞳が、顔を覗き込んでくる少年の姿を映して、
「……おはようございます、ツナさん」
寝起きだからか、低く擦れた声で挨拶をする。その声音に、穏やかな笑みに、ツナはどきりと心臓を跳ねさせた。
そして、
「いつもの、してくれますか……?」
「……うん」
続けられた言葉に、僅かに頬を染めると、
「……おはよう、隼人」
その唇に、そっとキスをしたのだった。