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□Lovely and beast
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「はっ…はっ……!」
「っ、はぁっ……!」

真っ暗闇の中に、誰かの浅く激しい呼吸と、まるで獣のような荒い息遣いが響く。

「っ、ひ……!」

息も絶え絶えに視線を上げれば、自分よりも体格の大きな、漆黒の存在が覆い被さってこちらを見下ろしていて。

「っ……!」

その、暗闇の中でも異彩を放つ血のように赤い瞳に、刃のような鋭い視線に、

「っ、ぁ……!」

そして、己に降り掛かる終わりのない脅威に、





(っ、し……死ぬぅぅぅっ……!)

意識を朦朧とさせながら、その青年は心の中で悲鳴を上げたのだった。


***


今から数日前。イタリアにある巨大マフィア、ボンゴレファミリーのアジトに……激震が走った。

―――ボンゴレ十代目、緊急入院。

まだ陽の高い時間帯に行われていた会議中、突然意識を失ったドン・ボンゴレは急いで病院へ搬送され、医師からすぐに入院が必要だと言い渡されたのだ。

あの、マフィアとは思えないほど穏やかで優しい性格の、誰にでも陽だまりのような暖かい笑顔を見せる、味方からは親愛を通り越して崇拝するほどのただならぬ感情を抱かせ、それどころか敵対関係にあった組織の人間まで魅了させ夢中にさせてしまう、あの十代目ボスが入院――ボンゴレ始まって以来の、一大事である。

要因は過労だと診断され、命に別状はないが数週間の休養が必要だという。

イタリアだけでなく、各国にいるボンゴレの人間全員が病院へ押し掛けそうになったのだが、彼の元家庭教師であり今も良き指導者である最強のヒットマンに門前払いをくらって……自分達の腑甲斐なさのせいでボスに負担をかけたことに誰もが悔し涙を流し、あの方の非常事態である今こそボンゴレは一つ!と皆士気を高め己に与えられた職務を全うすることになったのだった。恐るべき団結力だ。

そして、

「………」

そのボンゴレ十代目はというと、

「っ……!」

病室のベッドで一人、己の悲惨な運命と戦いながら、自分のために尽くす離れた仲間達のことを思い涙を―――





「っっっ最っ高……!」

―――流す訳ではなかった。

ボンゴレの人間にしか知られていない、極秘の存在である専用の病院……その一室で。

「ぁぁぁっ!俺は今、完全に自由の身なんだ……!」

清潔なベッドの上にだらしなく寝そべって、若きボンゴレ十代目……沢田綱吉は、至福の時を噛み締めていた。お見舞い品である最高級菓子を頬張り、手に持ったゲームのボタンをばしばしと叩きながら。

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