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□Boundary line
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「ひぁぁっ、ぁぁーっ…!」
人気のない、崩れかけた建物の中に、幼い少年の悲痛な声が響く。
瓦礫や鉄パイプの散らばるコンクリートの床には、誰かが身に付けていたであろう靴下や下着、学生服のスラックスが脱ぎ捨てられていた。
そして、
「ぁぁっ、やだっ…やだぁぁっ……!」
『おらっ!もっとケツを振れこの淫乱が!』
少年の泣きじゃくる声の他にも、複数の大人の怒声や笑い声が聞こえる。だが、少年以外の声は日本語ではなく、どこか別の国の言葉で。
(なん、で…こんな……)
己の境遇に打ちのめされながら、少年……ツナは、ただ心の中でそればかりを繰り返していた。
***
近頃、ツナは毎日の生活が嫌になっていた。
突然、自分はイタリアの巨大マフィアのボス候補であると告げられて、それからいろんな事件に巻き込まれて。
もちろん、そのおかげで友達もできたし、大切な仲間もできたのだが……将来に関わるとなれば話は別だ。自分は、ごく普通の生活が送られれば良いのだから。マフィアのボスなど、冗談ではなかった。
(はぁ……)
今日は、いつものように護衛だと言って家まで送ろうとするクラスメイトを上手く言いくるめて、一人でこっそりと学校を出た。彼も大切な友人だが、たまには一人でいる時間が欲しい。
こんな平和な町に、危険も何もないだろう……そう思いながら。
だが、他の誰かに会わないようにと、いつもと違う道で家に帰ろうとしたのが間違いだったのかもしれない。
それは、普段は通らない人気のない道を通ろうとした時だった。
「ん、ぅっ……!?」
突然、背後から目と口を何か布のような物に覆われて、強い力でどこかに引っ張られたのは。視界が真っ暗になってパニックを起こすツナを、その何者かは乱暴に引きずっていく。
やがて、抱き抱えられたまま……ツナには見えなかったが、道の端にあったワゴン車のような物に乗せられた。
(な、に…なにっ……!?)
突然の出来事に、ツナは頭の中が真っ白になってしまう。“誘拐”という単語は、その時は浮かばなかったのだ。
何故なら、こんな平和な町に、そんなものは無縁だと思っていたから。
そして、
『……こいつで間違いないな?』
『ああ……誰かに見られる前に、とっとと連れていくぞ』
「っ……!」
聞こえてきた男の声に、ようやくツナは恐怖に襲われた。目を覆われているので見えないが、相手は複数いるのだ。
しかも、その言葉は明らかに外国の言葉で。