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□A start
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夕方。辺りが少しずつ暗くなって、もう間もなく日が完全に落ちようという頃。

賑やかな繁華街から少し外れた通りを、何か黒いものが素早く横切った。闇に溶け込むような色のそれは、特に何も注意せずに歩いている一般人の目には映らない。
ただ、何かキラキラとしたものがほんの一瞬だけ、落ちる寸前の夕日で微かに光ったような気がする。

「………」

それは、人だった。男にしては非常に長く、とても綺麗な銀髪。そして、闇のように思われたのは、その人物が漆黒の、何かの制服のような衣服を着ているからで。

「……ウゼェ」

低い声音で、吐き捨てるように呟くその人物は、イタリアの巨大マフィア“ボンゴレファミリー”直属の特殊暗殺部隊“ヴァリアー”の作戦隊長……鋭い眼光に銀糸のような髪が印象的な、S.スクアーロだった。

イタリアにいるはずの彼が、なぜ日本にいるのかというと、ヴァリアーの任務のため。彼はしばしば、任務でこうして日本を訪れているのだ。

「………」

建物の壁に沿うようにして、早足で歩く彼の表情は険しい。普段から強面なのだが、今はその眉間に一層深い皺が寄っている。

機嫌が悪いのは、任務のことが原因ではない。今回一人で日本へ行くように命じられた任務は、あっさりと終えることができた。
今日はホテルでもう一泊して、明日イタリアへ帰るだけだ。

だが、

「……クソッ」

彼が苛々しているのは、日本に……この並盛町に、ある人物がいるから。

一人は、以前に激闘を繰り広げ、自分を負かしたくせにただの野球馬鹿という、いけ好かない中学生。

そして、もう一人。

「………」

その人物を思い浮かべて、スクアーロはさらに険しい顔付きになった。浮かんだのは、自分のボスとボンゴレ十代目の地位をかけて戦った、幼くて小さな少年。

その少年とは、始め敵同士だった。もちろん、スクアーロは今でも味方だとは思っていない。初めて会った時などは交戦中で、彼は少年を殺そうとしたくらいだ。
それからは、直接戦うことはなかったが、言葉を交わしたこともほとんどない。

なのに、こんなにもその少年のことが気になるのは何故なのか。任務で日本へ来ると……いや、イタリアにいる時でさえも、スクアーロは彼のことが頭から離れないのだ。
言葉では上手く言い表わせない。ただ胸がもやもやとして、無性に苛々する。こんな気持ちになるのは、初めてだった。

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